先週、Hosono Theater なるレイトショーを観に渋谷に出かけた折り、時間つぶしに立ち寄った本屋で『小野二郎セレクション』という文庫本のエッセイ集を見つけた(平凡社ライブラリー、2002年)。
目次にざっと目を通したところ、どうやら『紅茶を受皿で』(1981)でも『ベーコン・エッグの背景』(1983)でもなく、両者をつき混ぜたような独自の編纂物らしい。見覚えのないタイトルも散見されるので購入してみる。
帰りの車中で読み始めたら、もう懐かしさでたまらない。ジョージ・オーウェルの逸話を引きながら民衆文化の古層に触れる「紅茶を受皿で」。不味いはずの英国料理が食べたくなる「オーウェル『イギリス料理の擁護』の擁護」などなど…。初めて読んだときの、あのワクワクするような悦ばしい驚きが甦ってきた。
あれは1980年1月のことだった。大学生協の売店でバイトしていて、顔馴染の富士ゼロックスの営業マンから『グラフィケーション』という綺麗なPR誌を手渡された。奇しくもその号から小野二郎の連載「レッサーアートの栄光」がスタートしたのである。
「トイ・ブックスの周辺─絵本の源流」「十九世紀の版画工房─W・J・リントンのことなど」「ウォルター・クレインの絵本」「ミュージック・ホール盛衰記」…。イギリス大衆文化の精華たる「小さな芸術」のあれこれを、手品師よろしく取り出してみせる小野の語り口にすっかり魅了された。次号が届く翌月が待ち遠しく思えたものだ。
小生が後年、身銭を切ってウォルター・クレイン、ランドルフ・コールデコット、ウィリアム・ニコルソンらの絵本を集めるようになったのも、このときの愛読体験が出発点になっていたことに、今更ながら気づかされる。
嬉しいことに、この『小野二郎セレクション』には連載「レッサーアートの栄光」(全16回)のほとんどの文章が収められている。久しぶりに再読してみて、小生がつねづね口にしている自説が、実は小野二郎の所論に多くを負っている(無自覚の「受け売り」である)ことに、否応なしに悟らされた。
『グラフィケーション』誌の連載が終了したのは1981年4月。それから一年経つか経たないうちに、小野二郎は52歳の若さで急逝してしまう。
彼が先鞭をつけたヨーロッパ民衆文化の掘り起こしは、ちょうどその頃から急速に進展をみせ始める。小野二郎の絶筆が、 かの『路地裏の大英帝国』(角山榮・川北稔 編著)の書評だったというのは、何とも象徴的な事実である。
「兵士の物語」ディスコグラフィ(LPステレオ篇)
5)
エマニュエル・ヴァーディ指揮盤(英語版 Story of a Soldier)
英訳・脚色/ステラ・モス Stella Moss+アーノルド・モス Arnold Moss
語り手/メルヴィン・ダグラス Melvyn Douglas
悪魔/オールヴィン・エプスタイン Alvin Epstein
兵士/ジェイムズ・ミッチェル James Mitchell
Members of The Kapp Sinfonietta
ヴァイオリン/Jacques Margolies
コントラバス/Reuben Javits
クラリネット/Walter Lewis
ファゴット/Loren Glickman
トランペット/Theodore Weiss
トロンボーン/Charles Small
打楽器/Bradley Spinney
指揮/エマニュエル・ヴァーディ Emanuel Vardi
録音/1960年頃(?)、ニューヨーク
米盤 Kapp 6004
日盤 東芝 KSC-5017
*モノラル期にアメリカ初の全曲盤を録音したヴァーディが、再度ニューヨークで新たな英語版を携えて挑んだ再録音。主役の三人はブロードウェイのトップスターたち。演奏のキャップ・シンフォニエッタは当時のヴァーディの手兵である。
6)
ルイ・オーリアコンブ指揮盤(仏語版 L'Histoire du soldat)
演出/モーリス・サラザン Maurice Sarrazin
Le Grenier de Toulouse
語り手/モーリス・サラザン Maurice Sarrazin
悪魔/ジャン・ブスケ Jean Bousquet
シモーヌ・テュルク Simone Turck
ルイ・グランヴィル Louis Granville
ジャン・オール Jean Hort
兵士/ジャン・ファヴァレル Jean Favarel
皇女/シモーヌ・テュルク Simone Turck
トゥールーズ室内管弦楽団 Orchestre de Chambre de Toulouse
ヴァイオリン/Georges Armand
コントラバス/Jean Cros
クラリネット/Gilbert Voisin
ファゴット/Georges Michon
コルネット/Albert Calvayrac
トロンボーン/Gaston Adole
打楽器/Léon Lacour
指揮/ルイ・オーリアコンブ Louis Auriacombe
録音/1962年頃、トゥールーズ
仏盤 Véga 8 503 1962年発売
日盤 キング SLC(V)-2120 1971年発売
*トゥールーズ勢による知られざる録音。バロック音楽の指揮で知られるオーリアコンブが、手兵を率いて珍しく20世紀音楽を手掛けた一枚。悪魔役を男女四人の役者が演じ分ける工夫が面白い。
7)
イーゴリ・マルケヴィッチ指揮盤(フランス語版 L'Histoire du soldat)
脚色/ジャン・コクトー(?) Jean Cocteau(?)
語り手/ジャン・コクトー Jean Cocteau
悪魔/ピーター・ユスティノフ Peter Ustinov
兵士/ジャン=マリー・フェルテ Jean-Marie Fertey
皇女/アンヌ・トニエッティ Anne Tonietti
Ensemble de solistes
ヴァイオリン/マヌーグ・パリキアン Manoug Parikian
コントラバス/ヨアヒム・グート Joachim Gut
クラリネット/ユリス・ドレクリューズ Ulysse Delécluse
ファゴット/アンリ・エレールツ Henri Helaerts
コルネット/モーリス・アンドレ Maurice André
トロンボーン/ロラン・シュノルク Roland Schnorkh
打楽器/シャルル・ペシエ Charles Peschier
指揮/イーゴリ・マルケヴィッチ Igor Markevitch
録音/1962年10月4~8日、ヴヴェ(Théâtre de Vevey)
仏盤 Philips L 02.306 L 1963年発売
米盤 Philips PHS 900‐046 1963年発売
日盤 フィリップス SFL-7710 1964年発売
*第17回モントルー=ヴヴェ国際音楽祭の一環として催された「兵士の物語」上演に際し、コクトー、ユスティノフら多彩なキャストを招いてスイスのヴヴェで収録された。今なお、この曲の決定盤のひとつとされる。ジャケット装画はコクトーのオリジナル素描(1963年作)。
8)
レオポルド・ストコフスキー指揮盤
(フランス語版 L'Histoire du soldat および 英語版 The Soldier's Tale)
英訳/マイケル・フランダーズ Micheal Flanders+キティ・ブラック Kitty Black
語り手/マドレーヌ・ミヨー Madeleine Milhaud
悪魔/マルシアル・サンゲール Martial Singher
兵士/ジャン・ピエール・オーモン Jean Pierre Aumont
Instrumental Ensemble
ヴァイオリン/Gerald Tarack
コントラバス/Julius Levine
クラリネット/Charles Russo
ファゴット/Loren Glickman
トランペット/Theodore Weiss
トロンボーン/John Swallow
打楽器/Raymond Desroches
指揮/レオポルド・ストコフスキー Leopold Stokowski
録音/1967年
米盤 Vanguard VSD-71165/6 (フランス語/英語版) 1967年発売
仏盤 Vanguard 991 028 (フランス語版のみ) 1967年発売
日盤 ヴァンガード(キング) GX-1001 (フランス語版のみ) 1967年発売
*85歳の老巨匠が満を持して取り組み、仏・英二か国語版を収録した。「語り手」のマドレーヌ・ミヨーは作曲家ダリユス・ミヨー夫人。悪魔のサンゲールはラヴェルとも親しかったバス歌手。兵士のオーモンについては多言を要しないだろう。女性が「語り手」を務める録音は初めて。奏者のうち二人はストラヴィンスキー盤(54年の組曲盤)と共通する。ドルビー方式による臨場感たっぷりの録音が評判になった。
9)
シャルル・デュトワ指揮盤(フランス語版 L'Histoire du soldat)
語り手/ジェラール・カラ Gérard Carrat
悪魔/フランソワ・シモン François Simon
兵士/フランソワ・ベルテ François Berthet
Ensemble instrumental
ヴァイオリン/Nicolas Chumachenco
コントラバス/Joachim Gut
クラリネット/Antony Morf
ファゴット/Henri Helaerts
コルネット/Michel Cuvit
トロンボーン/Roland Schnorkk
打楽器/Pierre Métral
指揮/シャルル・デュトワ Charles Dutoit
録音/1970年6月、ローザンヌ(Salle des fêtes de Rennens, Lausanne)
仏盤 Erato STU-70620 1971年発売
日盤 コロムビア NCC-8008-R 1971年発売 (ストラヴィンスキー追悼盤)
*初演の地、ローザンヌでの初の全曲録音。悪魔役のF・シモンはアンセルメと「兵士」実演で共演の経験があり(兵士役)、コントラバス、ファゴット、トロンボーンはアンセルメの手兵スイス・ロマンドの首席奏者(マルケヴィッチ盤にも参加)。アンセルメが果たせなかった夢を、スイスの新鋭デュトワが実現させたアルバムともいえる。
10)
岩城宏之指揮盤(日本語版 「兵士の物語」)
脚色・演出/観世栄夫 Hideo Kanze
語り手/観世栄夫 Hideo Kanze
悪魔/観世寿夫 Hisao Kanze
兵士/観世栄夫 Hideo Kanze
ヴァイオリン/田中千香士 Chikashi Tanaka
コントラバス/田中雅彦 Masahiko Tanaka
クラリネット/内山 洋 Hiroshi Maruyama
ファゴット/山畑 馨 Kaoru Yamahata
トランペット/北村源三 Genzo Kitamura
トロンボーン/伊藤 清 Kiyoshi Ito
打楽器/有賀誠門 Makoto Ariga
指揮/岩城宏之 Hiroyuki Iwaki
録音/1971年3月、東京(キングレコード第1スタジオ)
日盤 キング SKR-1040 1972年発売
*岩城宏之の発案により、日本で初めて録音された「兵士の物語」。観世栄夫による日本語版はラミュのオリジナルにきわめて忠実である。アンサンブルは当時のNHK交響楽団の首席奏者たち。
11)
ボストン交響楽団チェンバー・プレイヤーズ盤
(英語版+フランス語版 L'Histoire du soldat)
英訳/マイケル・フランダーズ Micheal Flanders+キティ・ブラック Kitty Black
(英語版)
語り手/ジョン・ギールグッド John Gielgud
悪魔/ロン・ムーディ Ron Moody
兵士/トム・コートニー Tom Courtnay
演出/ダグラス・クレヴァードン Douglas Cleverdon
(フランス語版)
語り手/ガブリエル・カタン Gabriel Cattand
悪魔/フィリップ・クレー Philippe Clay
兵士/フランソワ・ペリエ François Périer
Boston Symphony Chamber Players
ヴァイオリン/Joseph Silverstein
コントラバス/Henry Portnoi
クラリネット/Harold Wright
ファゴット/Sherman Walt
コルネット/Armando Ghitalla
トロンボーン/William Gibson
打楽器/Everett Firth
指揮者なし
録音/音楽=1972年5月、ボストン 朗読=不明(英語版) 1975年2月、パリ(仏語版)
独盤 Deutsche Grammophon
2530 609(英語版) 2530 590(フランス語版) 1975年発売
仏盤 Deutsche Grammophon 2530 590(フランス語版)
日盤 グラモフォン MG-2514(フランス語版)
*指揮者なしのアンサンブルながら、演奏は実に達者。ストコフスキーに倣って英仏二か国版が製作されたが、キャストは全く異なる。映画出演でも知られるフランソワ・ペリエを起用した仏語版も悪くないが、英国演劇界の最長老ジョン・ギールグッドが格調高く「語り手」を務める英語版も貴重。
12)
ザルコヴィッチ指揮盤(英語版 The Soldier's Tale)
英訳/ナイジェル・ルイス Nigel Lewis
語り手/グレンダ・ジャクソン Glenda Jackson
悪魔/マイケル・マクリアモア Micheál MacLiammóir
兵士/ルドルフ・ヌレーエフ Rudolf Nureyev
製作/アラン・シーヴライト Alan Sievewright
ヴァイオリン/Erich Grunberg
コントラバス/Gary Brennan
クラリネット/Gervase de Peyer
ファゴット/John Price
トランペット/Grahame Whiting
トロンボーン/Alfred Flazynski
打楽器/Tristan Fry
指揮/ゲンナジー・ザルコヴィッチ Gennady Zalkowitsch
録音/1977年頃、ロンドン
英盤 Argo ZNF-15 1977年発売
*イギリスの個性派女優グレンダ・ジャクソン(語り手)。アイルランド演劇界の重鎮マクリアモア(悪魔)。不世出のロシア人ダンサー、ヌレーエフ(兵士)。なんとも凄い顔合わせだ! 故郷を喪失した亡命者ヌレーエフに兵士役を演じさせるなんて、ちょっとあざといほどのアイデア。数あるディスクのうちでも、独特の語りという点では最右翼に位置しよう。これがCD化もされず、忘却の淵に沈んでしまってよいものか?
13)
ブーレーズ指揮盤(フランス語版 L'Histoire du soldat)
語り手/ロジェ・プランション Roger Planchon
悪魔/アントワーヌ・ヴィテーズ Antoine Vitez
兵士/パトリス・シェロー Patrice Chéreau
Solistes de l'ensemble intercontemporain
ヴァイオリン/Sylvie Gazeau
コントラバス/Frédéric Stochl
クラリネット/Alain Damiens
ファゴット/Jean-Marie Lamothe
コルネット/Jean-Jacques Gaudon
トロンボーン/Jérôme Naulais
打楽器/Michel Cerutti
指揮/ピエール・ブーレーズ Pierre Boulez
録音/1980年12月、パリ(IRCAM-Centre Georges Pompidou)
仏盤 Erato STU-71426 1982年発売
米盤 RCA-Erato ARL1-4354 1982 年発売
日盤 RVC REL-8316 1982年発売
*ブーレーズが自ら育てた演奏集団「アンサンブル・アンテルコンテンポラン」と録音した全曲盤。兵士役は彼の盟友である演出家シェロー。大きな期待を抱いたが、肩透かしをくらった。精密無比の演奏ながら、演劇的な魅力に欠けていたように思う。
14)
カンブルラン指揮盤(フランス語版 L'Histoire du soldat)
語り手/ヤン・ル・ガック Yann Le Gac
悪魔/ミシェル・ガスカール Michel Gascard
兵士/サンディ・ゴロスティーディ Sandi Gorostidi
フィリップ・リゾン Philippe Lizon
ジル・ロマン Gil Roman
Solistes de l'Orchestre Symphonique de l'Opéra National de Belgique
ヴァイオリン/Zygmunt Kowalski
コントラバス/Maurice Aerts
クラリネット/Raymond Dils
ファゴット/Masahito Tanaka
コルネット/Florent di Fabio
トロンボーン/François de Backer
打楽器/Daniel Delmotte
指揮/シルヴァン・カンブルラン Sylvain Cambreling
録音/1982年12月27~30日、ブリュッセル(Studio 1, RTBF)
仏盤 EMI 1A 069-65095 1983年発売
*モーリス・ベジャールの「20世紀バレエ団」公演に際してのスタジオ録音。奏者はブリュッセルのモネ劇場のメンバー。兵士を三人で演じ分けているのが特色だが、舞台を観ていないので、その演出意図はよくわからない。
「兵士の物語」ディスコグラフィ(LPモノラル篇)
1)
フェルナン・ウーブラドゥ指揮盤(フランス語版 Histoire du soldat)
語り手/ジャン・マルシャ Jean Marchat
悪魔/マルセル・エラン Marcel Herrand
兵士/ミシェル・オークレール Michel Auclair
Ensemble instumental
ヴァイオリン/ジョルジュ・アレス Georges Alès
コントラバス/アンリ・モロー Henri Moreau
クラリネット/ピエール・ルフェーヴル Pierre Lefebvre
ファゴット/ポール・オンニュ Paul Hongne
コルネット/ロジェ・デルモット Roger Delmotte
トロンボーン/マルセル・ガリエーグ Marcel Galiègue
打楽器/ルネ・アニコ René Hanicot
指揮/フェルナン・ウーブラドゥ Fernand Oubradous
録音/1952年6月30日、パリ、シャンゼリゼ劇場
仏盤 Pathé Marconi DTX-124 1953年(?)発売
米盤 Pathé Vox PL-7960 1953年発売
日盤 Angel PA-1010 1956年発売
*初の朗読入り全曲盤。朗読者三人はフランス演劇・映画界の実力派俳優。ウーブラドゥー率いるアンサンブルも、オンニュやデルモットら、フランス屈指の腕利きをずらりと揃えている。2004 年に仏EMI からCD "Les Rarissimes de Fernand Oubradous" として覆刻。
2)
プリッチャード指揮盤(英語版 The Soldier's Tale)
英訳/マイケル・フランダーズ Michael Flanders+キティ・ブラック Kitty Black
語り手/アンソニー・ニコルズ Anthony Nicholls
悪魔/ロバート・ヘルプマン Robert Helpman
兵士/テレンス・ロングドン Terence Longdon
Chamber Ensemble
ヴァイオリン/アーサー・リーヴィンズ Arthur Leavins
コントラバス/ エドモンド・チェスターマン Edmond Chesterman
クラリネット/ジャック・ブライマー Jack Brymer
ファゴット/グィディオン・ブルック Gwydion Brooke
コルネット/リチャード・ウォルトン Richard Walton
トロンボーン/シドニー・ラングストン Sydney Langston
打楽器/スティーヴン・ホイッテイカー Stephen Whittaker
指揮/ジョン・プリッチャード John Pritchard
録音/1954年
英盤 HMV ALP-1377 1955年(?)発売
米盤 RCA LM-2079 1957年発売
*英語版による最初の録音。1954年、エディンバラ音楽祭で上演された直後、同一キャストで収録されたもの。悪魔役のヘルプマンは英国バレエ界を代表するダンサー・振付師。映画「赤い靴」出演でも知られる。
3)
エマニュエル・ヴァーディ指揮盤(英語版 Story of a Soldier)
英訳/ローザ・ニューマーク Rosa Newmark
脚色/シドニー・ティリム Sidney Tillim
演出/マリエル・シャロン Muriel Sharon
語り手/フリッツ・ウィーヴァー Fritz Weaver
悪魔/フレデリック・ウォリナー Frederic Warriner
兵士/ジョン・ハーキンズ John Harkins
Instrumental Ensemble
指揮/エマニュエル・ヴァーディ Emanuel Vardi
録音/1954年暮か1955年初頭、ニューヨーク
米盤 Vox PL-8990 1955年発売
英盤 Vox PL-8990 1955年発売
*アメリカにおける最初の全曲盤録音か。NYでの上演に際して収録。ヴァーディは後年ステレオ再録盤も手掛けている。
4)
イーゴリ・ストラヴィンスキー指揮盤(仏語版 Histoire du soldat)
脚色・演出/ブロニスラフ・ホロヴィッツ Bronislaw Horowicz
語り手/ジャン・ダヴィ Jean Davy & フランソワ・ヴィベール François Vibert
悪魔/ロベール・マニュエル Robert Manuel
兵士/ジャック・トジャ Jacques Toja
皇女/フランス・デコー France Descaut
太鼓/ポール・バレ Paul Barré
効果音/セルジュ・ボド Serge Baudo
Ensemble instrumental
ヴァイオリン/アレグザンダー・シュナイダー Alexander Schneider
コントラバス/ ジュリアス・レヴァイン Julius Levine
クラリネット/デイヴィッド・オッペンハイム David Oppenheim
ファゴット/ローレン・グリックマン Loren Glickman
トランペット/ロバート・ネイゲル Robert Nagel
トロンボーン/アーウィン・プライス Erwin Price
打楽器/アルフレッド・ハワード Alfred Howard
指揮/イーゴリ・ストラヴィンスキー Igor Stravinsky
録音/音楽=1954年、朗読=1950年代後半(?)
仏盤 Philips A-01.210 1950年代末(?)発売
*アメリカでストラヴィンスキーが録音した組曲版に、パリで朗読と効果音を加え、ほぼ全曲版に仕立てた邪道に近いディスク。皇女役に台詞を語らせた初の試みでもある。コメディ・フランセーズの俳優を起用するなど、それなりに努力がみられるが、同じPhilipsから数年後にマルケヴィッチ盤が出現したため、完全に忘れられた。
ちょっと寄り道してから渋谷のユーロスペースに到着したら、手渡された整理券番号が200に近い数字。今夜の「Hosono Theater」上映最終日は細野晴臣さんご本人がトークされるとあって、さすがに凄まじい人気のようだ。開映前のロビーは二十代の若者で溢れんばかり。
これはきっと立ち見だな、と同行した友人ともども覚悟をきめて入場したら、最前列に空席があって二人とも坐れた。何という僥倖だろう!
今日(30日)上映されるのは細野さんお奨めの一本で、「ベルヴィル・ランデブー」(2002)というフランス=カナダ=ベルギー合作のアニメ映画。
原題/Les Triplettes de Belleville(ベルヴィルの三つ子)
監督・脚本・絵コンテ/シルヴァン・ショメ
美術/エヴゲニー・トモフ
音楽/ブノワ・シャレスト
自転車乗りの孫息子をマフィアに誘拐された婆さんが、愛犬を連れて摩天楼聳える大都会ベルヴィルにたどり着く。偶然巡り会った三つ子の老婆芸人Les Triplettes の助けを得て、婆さんは首尾よく孫を救出し、追っ手のマフィアたちをやっつける、という奇想天外なお話。
ただし、粗筋は何の助けにもならない。このアニメの奇妙な味わい、黒く苦いユーモア、うら寂れた情景描写、そこはかとなく漂う人情味は、いくら言葉を重ねてもうまく伝えにくい。回顧趣味と鋭い感覚とがない混ぜになったサウンドも、ちょっと形容に窮するほど目覚ましくユニークだ。
細野さんはTVの予告クリップで観て、瞬時に傑作と直感し、すぐさまDVDを購い求めたそうだ。スクリーンで観るのは今日が初めてとのことで、お孫さんと一緒に鑑賞されていた。
上映終了後、細野さんとコシミハルさんが壇上に上がる。聞き手は川村恭子さん。
細野さんは「ベルヴィル・ランデブー」の音楽とSE(効果音)の扱いについて、それがいかに斬新で素晴らしいかを力説された。映画のなかで婆さんトリオが歌う曲も、いかにも昔っぽく聴こえるが、オリジナルの新曲なのだそうだ。
お好きな映画音楽の作曲家は?との質問に、コシミハルさんは「『幕間』のサティ。それからオーリック、ニーノ・ロータ、フランコ・マンニーノ」、細野さんは「バーナード・ハーマンとかアルフレッド・ニューマンとか。それからモーリス・ジャール。この人にはとても影響された」。「でも昔の人ばかりで、今では映画監督と作曲家が共鳴しあうような関係がもうない」とも。
ご自身の映画音楽については、「せいぜい10本程度で、とても映画音楽家とはいえない」と謙遜されつつも、「映画のために音楽を書くのは楽しいし、好きだ。ポップスを書くときのような商業的制約がなくて、自由にのびのびやれるから」と語る。
そのなかでは、やはり最新作「メゾン・ド・ヒミコ」に愛着があるご様子だ。反面「銀河鉄道の夜」では「ほとんど映像も観ずに30曲も書かなければならなかった」と不満を漏らし、「源氏物語」に至っては、思い出したくもないそうな。
「映画のなかでは音楽はSEと同じものなんだ」「音楽がほとんどないような、そんな映画音楽をやりたい」と語っておられた言葉も、強く印象に残っている。
最後に客席からの質問、
──「ロスト・イン・トランスレーション」でご自分の曲(=はっぴいえんど「風をあつめて」)が使われて、どのように感じられましたか?
に対しては、ひとこと「嬉しかった」と答えたあと、「でも、鈴木茂たち仲間と一緒に映画館まで観に行って、終わりの字幕ロールをしまいまで観ているのが、とても恥かしかった」と告白されたのが、いかにもシャイな細野さんらしかった。
今日は大収穫だった。深夜1時半に帰宅したら、ようやくポツポツ降り始めた。これで少しは涼しくなるだろう。