ショスタコビッチ氏が死去
(朝日新聞 1975年8月11日)
【モスクワ十日=タス】
著名なソ連の作曲家、ドミトリー・ショスタコビッチ氏は九日、病気のため死去した。六十八歳。(なお、ロイター電は、死因は心臓発作という家族の話を伝えている)。
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ショスタコビッチは一九〇六年生まれ。一九二五年、十九歳のとき、ペトログラード音楽院卒業制作の第一交響曲で、世界的な名声を得た。十五の交響曲をはじめ、オペラから映画音楽まで幅広い分野で百以上の作品を発表、世界で最も偉大な作曲家の一人に数えられている。代表作には、第五、七交響曲、オラトリオ「森の歌」などがある。
一九三〇年代の代表作オペラ「ムツェンスクのマクベス夫人」が労働者階級にはむずかしすぎるとプラウダ紙上で批判されたのを始め、その現代音楽的な作風は一度ならずソ連政府の不興をかっているが、そのたびに政府の文化施策に従う姿勢の作品を発表、名誉を回復している。六十歳の誕生日には、ソ連最高の「社会主義労働英雄」の称号を与えられ、レーニン賞も受けている。
【レノックス(米マサチューセッツ州)九日=AP】
ソ連の作曲家、D・ショスタコビッチ氏が九日夜、モスクワで死亡したことが九日、当地でのボストン交響楽団の演奏会の席上発表された。これは同楽団の音楽監督、小沢征爾氏が、ショスタコビッチの第五交響曲を演奏するに先立ち聴衆に発表したもので、小沢氏によると、客演指揮者のロストロポービッチ氏が同日、モスクワからの電話で「ショスタコビッチ氏が九日午後七時死亡した」との連絡を受けたという。(小沢氏の発表はモスクワからまだ報道される以前で、これがショスタコビッチ氏死去の最初の知らせとなった)
スターリン時代の批判くぐり抜ける
[作曲家柴田南雄氏の話]
革命直後から、ソ連音楽界を芸術的にも楽壇的にも代表する作曲家だった。ソ連以外では、とくにアメリカや日本でその作品が好んで上演された。ロシア革命後、新鮮な感覚の第一交響曲を発表して、世界の作曲界のホープとみなされたが、やがて「明るい小川」というバレエ曲などが、社会主義リアリズム路線からはずれていると、スターリン時代のソ連で激しい批判を受けた。しかし、革命二十周年のために作った第五交響曲で、その危機をくぐりぬけ、以後、党の音楽理念を忠実に反映した数多くの作品でソビエト的音楽を盛りたてた。
スターリン時代、自分の作風を変えなかったために消えていったソ連の作曲家は少なくないのだが、”民衆への奉仕” という立場からこの時期、ショスタコビッチが作風を変えたことは、後世どう評価されるか注目したいところだ。ただ、彼の辞世の曲ともいえる最後の第十五交響曲で、ロッシーニやワーグナーなどを引用し、自分の作風の源泉を回顧していたのが、印象に残っている。
昨日(7月31日)不世出の演出家ロバート・ウィルソンがニューヨーク州ウォーター・ミルのご自宅で「重篤な急病により」亡くなられたそうだ。享年八十三。そんなつもりで用意しておいた観劇リストではなかったのだが、心からの追悼の意を込めて、小生が体験できたドビュッシーのオペラ《ペレアスとメリザンド》を時系列で記しておこう。
訃報 ⇒ https://robertwilson.com/news【わが《ペレアス》遭遇記録 1973–2022】▣ 1973年5月25日 ※演奏会形式
東京文化会館
若杉 弘 指揮
読売日本交響楽団、日本プロ合唱団連合
ペレアス/鈴木寛一
メリザンド/林 靖子
ゴロー/田島好一
▣ 1997年10月14日
パリ、オペラ座 (パレ・ガルニエ)
ロバート・ウィルソン演出
ジェイムズ・コンロン指揮
オペラ座管弦楽団・合唱団
ペレアス/ラッセル・ブラウン
メリザンド/ドーン・アップショー
ゴロー/ジョゼ・ヴァン・ダム
▣ 1998年12月16日 ※演奏会形式
東京、サントリーホール
ジャン・フルネ指揮
東京都交響楽団、二期会合唱団
ペレアス/鎌田直純
メリザンド/奈良ゆみ
ゴロー/大島幾雄
▣ 2000年5月28日
パリ、オペラ座 (パレ・ガルニエ)
ロバート・ウィルソン演出
マーク・エルダー指揮
オペラ座管弦楽団・合唱団
ペレアス/ディートリヒ・ヘンシェル
メリザンド/ジョーン・ロジャーズ
ゴロー/ジョゼ・ヴァン・ダム
▣ 2018年8月1日 ※セミ・ステージ上演
東京オペラシティ コンサートホール
フィリップ・ベジア&フローラン・シオー演出
マルク・ミンコフスキ指揮
オーケストラ・アンサンブル金沢、ドビュッシー特別合唱団
ペレアス/スタニスラス・ド・バルベラック
メリザンド/キアーラ・スケラート
ゴロー/アレクサンドル・デュアメル
▣ 2022年7月2日
東京、新国立劇場 大劇場
ケイティ・ミッチェル演出
大野一士 指揮
東京フィルハーモニー交響楽団、新国立劇場合唱団
ペレアス/ベルナール・リシュテール
メリザンド/カレン・ヴルシュ
ゴロー/ロラン・ナウリ
❖わが人生でこれまでに接したドビュッシーの歌劇《ペレアスとメリザンド》は、1973年の若杉弘指揮による演奏会形式上演(このオペラの日本で二度目の全曲演奏)を皮切りに、半世紀間で六回を数える。ただし、なかにはすっかり失念していたり、できれば記憶から抹殺したい公演もあり、細部まで明瞭に思い出せるのは、1997年と2000年にパリのオペラ座で観た舞台上演だけだ。それほどまでにロバート・ウィルソン演出から深甚な衝撃を受けた。
アンドレイ・フルジャノフスキー監督の傑作《一部屋半》(2008)が久々に上映される。詩人ヨシフ・ブロツキーの帰郷の旅を描いた至高のフィルム。「必見」という言葉はこのような作品のためにあるのではなかろうか。
2025年6月28日(土)
港区札の辻スクエア(東京・田町) 11階ホール小
エース・スクエア主催
第15回 ロシア語映画発掘上映会
アンドレイ・フルジャノフスキー監督作品
《一部屋半 あるいは故郷へのセンチメンタルジャーニー》
"Полторы комнаты или сентиментальное путешествие на родину"
11時~(追加上映)
14時~ ※上映前に沼野充義教授のトークあり。
字幕を手がけた井上徹さんへの追悼の想いをこめた上映会。午前11時の追加上映の回ならまだ予約可能。急げ!