一昨日の『朝日新聞』別刷版 "be on Saturday" 連載「うたの旅人」が山下達郎の「
クリスマス・イブ」を採り上げていた。時節柄ぴったりの選曲だ。
今回の旅の訪問先はJRの名古屋駅。ここの新幹線ホームや改札やコンコースを舞台に、JR東海のTV・CM「クリスマス・エクスプレス」(当初は「ホームタウン・エクスプレス」)が撮影され、1988年12月から五年連続で放映された。
そこに効果的に用いられたのが山下達郎が創唱した「クリスマス・イブ」。「きっと君は来ない ひとりきりのクリスマス・イブ~」という、誰もが知る例のあの曲だ。楽曲そのものは1983年に発表されていたが、このJRのクリスマス・キャンペーンですっかり人口に膾炙したのだという。
執筆は中島鉄郎さん。春に同じこの連載でユーミンの「ひこうき雲」について秀逸な取材記事を書いた方だ(この記事については
→「あの子の命はひこうき雲」)。今回もCMの創り手の思惑をよそに、この曲(とCMそのものも)がバブル時代の気分("クリスマス・イヴには彼女を高級ホテルに誘う")を象徴するものとして記憶されるに至る経緯を、当事者たちの証言をもとに丁寧に辿る。
このCMは一貫して新幹線を使った遠距離恋愛をテーマにしており、毎回それらしいキャッチ・コピーを伴っていた。曰く、
帰ってくるあなたが最高のプレゼント
どうしてもあなたに会いたい夜があります
会えなかった時間を今夜取り戻したいのです
いやはや流石である。電通のコピーライターの面目躍如といったところ。
JR東海ではこのほか「シンデレラ・エクスプレス」 というCMキャンペーンを放映していた。こちらはユーミンの同名曲をテーマ・ソングに用いていたと記憶する。遠距離恋愛を採り上げたCMとしてはこちらのほうが「クリスマス・エクスプレス」よりも早く、1987年夏に開始された、とウィキペディアにある。
たぶんこちらのCMだと思うのだが、こんな惹句が伴っていたのを記憶している。
距離に試されて、二人は強くなる。
このコピーを週刊誌の広告で目にしたのは1992年の初めだったと思う。
ちょうどその頃、奉職していた美術館でレンブラントの展覧会をやることになっていた。しかも館が収蔵している肖像画『広つば帽を被った男』(
→これ)と同寸同形で、もともと対をなしていたという女性の肖像(
→これ)を、所蔵する米国のクリーヴランド美術館から借りられることになった。
全くもって藪から棒の急な話だったのだが、とにかくこれを喧伝しない手はないであろう。なにしろこのペアの肖像画はおそらく18世紀にそれぞれ別の持ち主の手に渡って以来、ただの一度も並んで展示されたことがないのである。片方がパリにあると、もう片方はドイツにあり、ともにアメリカに移ってからも所蔵主は別々、そして今は千葉とクリーヴランド、同時に並べられる機会など皆無だったのだ。
長い年月ずっと離れ離れだった(おそらくアムステルダムの裕福な夫婦である)男女の日本での再会は、ちょっとした話題になるのではないか。展覧会にはサンクト・ペテルブルグのエルミタージュ美術館から有名な『フローラ』もやって来るのだが、むしろこの「夫婦の再会」のほうが目玉たりうるかもしれない、そう考えたりもした。
JR東海とは異なり、宣伝に金のかけられない美術館のことだから、電通や博報堂など以ての外、館員が自らコピーライターになったつもりで知恵を絞らねばならぬ。ポスターを製作する期日が迫ってきている。
電車の中吊り広告というのがある。B3サイズ横長のポスターに、再会を果たす夫婦の肖像を並べて左右に配する。いい感じだ。そしてそこに惹句が入る。
200年の歳月が二人を隔てていた。
(まだ書きかけ)