とりあえず原稿の訂正箇所も確定した。やれやれ、これでようやく一息つけそうだ。今回は執筆が捗らず一時はどうなることかと思ったのだが、ともあれ期限の月末までに書き終えられてホッとした。肝腎の中身はとなると些か心許ないのだが。
もうドビュッシーはよかろう。夜更けに心安らぐ音楽が聴きたくなる。
「チェロとオーケストラのための作品集」
チャイコフスキー:
ロココ風の主題による変奏曲 作品33
夜想曲 作品19-4
アンダンテ・カンタービレ ~弦楽四重奏曲 第一番 作品11
奇想的小品 作品62
ロマンス ~六つの小品 作品51
瞑想曲 ~十八の小品 作品72
感傷的な円舞曲 ~六つの小品 作品51
旋律 ~懐かしい土地の思い出 作品42
ユモレスク 二つの小品 作品10
チェロ/ダーヴィド・ゲリンガス
ヴラジーミル・フェドセーエフ指揮
モスクワ放送交響楽団
1995年5月22、24日、1996年3月18日、モスクワ放送局 第五スタジオ
Canyon PCCL 00411 (1997)
これはなんとも心に沁み入る素晴らしい演奏だ。
リトアニア出身のゲリンガスはモスクワでロストロポーヴィチに学んだチェリストだが、これほど師匠に似ない門下生も珍しいのでないか(もうひとり、かのクレーメルもオイストラフとまるで似たところがない…)。勿論ゲリンガスも際立った腕前の持ち主なのだが、それをおくびにも出さず、抑制のきいた音楽をひたすら淡々と奏でる。技巧が表面に出過ぎるのを自らに禁じているかの如くに。
その姿勢がここでは奏功して、チャイコフスキーの旋律が比類なく高貴なものとして紡がれる。「ロココ主題」がかくも気品に満ちた音楽だとは知らなかった。その他のどの曲を聴いても、楚々とした情感と歌心の余韻がそこはかとなく漂う。ゲリンガスは真のチェリストだ。フェドセーエフの行き届いた繊細な指揮ぶりにも感銘を受けた。
後半の曲目はいずれも別人の手になる編曲物なのだろうが、「懐かしい土地の思い出」の優しい歌心には不覚にも涙が出そうになる。最後の「ユモレスク」は初めて聴く曲だが、馴染の旋律がいきなり繰り出され吃驚。後年ストラヴィンスキーがバレエ『妖精の接吻』で再使用したからだ。