今日も野暮用で東京まで往還して疲労困憊した。
なのでちょっとひと心地つきたい気分だ。熱い珈琲を淹れて、眠りに就く前に少しだけ音楽を聴く。人の声とピアノがたまらなく恋しい。
"Yvonne Kenny: Recital at Wigmore Hall"
シューベルト:
春の想い
憂い
ガニュメデス
リヒャルト・シュトラウス:
私は宙に漂い
子守唄
私は花束が編みたかった
アモル
プーランク:
「偽りの婚約」
ロドリーゴ:
「四つの愛のマドリガル」
コープランド:
「古いアメリカの歌」
(アンコール)
アイルランド民謡(ヒューズ編):
私は行く道を知っている
ソプラノ/イヴォンヌ・ケニー
ピアノ/ローレンス・スクロバクス
1984年5月24日、ロンドン、ウィグモア・ホール(実況)
Etcetera KTC 1029 (1990)
独仏西米の歌曲をさりげなく年代順に並べ、花束みたいに差し出す。色も香りもさまざまに異なる花々。目を奪うその多彩さ、凝りに凝ったヴァーサタイルな選曲にまず唸ってしまう。よほど表現力に自信がなければこんなプログラムは組めない筈だ。当日の演目もこのとおりの曲順だったとおぼしく、最初のシューベルトは興に乗らぬ様子だが、シュトラウスで俄然いい調子が出て、あとの瀟洒なプーランク、珍しいロドリーゴ、鄙びたコープランドと進むあたりはもう彼女の独擅場。オーストラリアという出自のせいか、どの国の音楽にも等しく適性をもつという稀有な才能。当時まだ三十歳前半の若々しい声がいい。アンコールがわが鍾愛のアイリッシュなのも嬉しい。
"Erik Satie: Socrate, Messe des pauvres etc."
エリック・サティ:
天国の英雄門の前奏曲
ジムノペディ 第一番
サラバンド 第二番
グノシエンヌ 第三番
最新の一つ前の思想 ~牧歌、朝の歌、瞑想
自動筆記 ~舟について、ランタンについて、兜について
太っちょの木偶のスケッチと揶揄 ~トルコ風ティロル舞曲、痩せた舞曲
遺作の前奏曲
貧者のミサ*
交響的ドラマ「ソクラテス」**
ピアノ/フランシス・プーランク
オルガン/マリリン・メイソン*
デイヴィッド・ランドルフ指揮 ランドルフ・シンガーズ*
アルキビアデス、召使=ヴィオレット・ジュルノー**
ソクラテス=ジャニーヌ・ランデンフェルデール**
ファイドロス=シモーヌ・プボルド**
ファイドン=アンヌ=マリー・カルパンテール**
ルネ・レボヴィッツ指揮 パリ・フィルハーモニー管弦楽団**
1950年2月、パリ
1951年9月、ニューヨーク?
1952年5月、パリ
él ACMEM 130 CD (2007)
続いては英国のマイナー・レーベルからのサティ・アンソロジー。五十年経って版権が切れた音源をLP盤から複製したものとおぼしく、プーランクの弾くピアノ曲は本家の Sony (米Columbia)から正規CDも出ている。聴きものは残りの「貧者のミサ」と「ソクラテス」。どちらもLP最初期に Esoteric という米の弱小レーベルから出た(たぶん)世界最初の録音だったと思う。「貧者のミサ」は今聴いても名演。「ソクラテス」はちょっと感情過多で違和感がある演奏だ(音質も不自然で宜しくない)。とはいうものの、滅多に聴けぬ稀少な演奏に再会できたのは嬉しいし、初出時の「ソクラテス」LPの可愛いオリジナル・ジャケットが再使用されているのも懐かしい(
→これ)。
そのあと聴いた数枚については後日。