さしたる期待もなしにふと拾い上げたCDを何気なくかけたらいきなり魅惑されてしまい、今日の東京への往還はずっとこればかり聴き続けた。選曲がいいのか、演奏が優れているのか。おそらくその両方だろう。
"Across Boundaries - Discovering Russia 1910-1940 vol. 1: Vision"
アルトゥール・ルリエー:
ジーグ (1927)
円舞曲 (1926)
行進曲 (1927)
トッカータ (1924)
サムイル・フェインベルグ:
子守唄 (1932)
アレクサンドル・ウェプリク:
舞曲 (1927)
セルゲイ・プロコフィエフ:
束の間の幻影 (1915-17)
ラーザリ・サミンスキー:
幻影 (1919)
ヨシフ・アフロン(ジョゼフ・アクロン):
小像 (1930)
アルトゥール・ルリエー:
子供部屋のピアノ (1917)
ピアノ/
ヤッシャ・ネムツォフ
1996年11月、ライプツィヒ放送局
Edition Abseits EDA 012-2 (1997)
プロコフィエフの「
束の間の幻影」以外の楽曲はこの時点ですべてが初録音であり、1990年前後ギドン・クレーメルに主導されて始まったルリエー復活に連なる重要なアルバムでもある。どの曲も独創的な響きがして、一聴するなり惹き込まれてしまう。亡命後のパリ時代の小品もさることながら、革命のさなか児童の練習用として書かれた「
子供部屋のピアノ」の魅惑は何物にも代えがたい。初版の楽譜にはピョートル・ミトゥーリチが素敵な装画を添えていたはずだ。この曲集はプロコフィエフの「束の間の幻影」とも同時代の作品であり、これらを同じアルバムで聴けるのはなんとも意義深いことだ。
加えて後年は専らピアニストとして令名を馳せたフェインベルグの小品やら、渡米後は芽が出ずハイフェッツが弾いたアンコール曲のみで知られるアフロンやら、まるで知らないウェプリクやサミンスキーまで、革命期からネップ期にかけ、残留組・亡命組を問わずユダヤ系ロシア人が書き遺した未知のピアノ曲ばかり丹念に集めた選曲が秀逸。敏捷で手堅い演奏もこれらの音楽に似つかわしい。勉強になるなあ。