昨晩遅く、連載「バレエ・リュスと日本人たち」第三回の修正ゲラが届いていたので、起き抜けに点検して戻した。これで一件落着、とりあえず手許に普請中の原稿はなくなったのでホッと一息つく。ネット上での公開は明日(31日)になるらしい。
いずれ続きを書き進めねばならぬのだが、それは八月になってからにしよう。
先日、朝日新聞に畑中良輔さんが若杉弘さんへの追悼文を寄せていた。畑中さんは若杉さんが最初についた師であり、オペラ運動における永年の盟友だったから、他の誰にも書けない切々と真情の溢れる文章である。その末尾にこうあった。
ひつぎに横たわった胸の上には、生涯かけてびっしりと書き込みを続けた、最愛の「ペレアスとメリザンド」の楽譜が置かれていた。
なので、今日はその『ペレアスとメリザンド』をかけながらこれを書いている。
ドビュッシー:
『ペレアスとメリザンド Pelleas und Melisande』
ペレアス/ヴォルフガング・ヴィントガッセン
メリザンド/ローレ・ヴィスマン
ゴロー/アレクサンダー・ヴェリッチュ
アルケル/ヴァルター・ハグナー
医師/クルト・ベルガー ほか
ベルティル・ヴェッツェルスベルガー指揮
シュトゥットガルト放送管弦楽団・合唱団
1948年、シュトゥットガルト(放送録音)
Cantus Classics CACD 5.00824 F (2005)
この古い録音の何が凄いって、全幕がドイツ語で歌われていることだ。1950年代までドイツではあらゆるオペラ(『フィガロ』も『カルメン』も『椿姫』もだ)自国語で上演するのが常だったのは知ってはいたが、『ペレアス』に限ってフランス語以外の言語で歌われるのは(小生の知る限り)この大昔の放送録音だけではなかろうか。
森の中で見出されたメリザンドが "Ne me touchez pas!" と呟かないのも不思議だし、ペレアスが開口一番 "Wollen Sie mit mir ein wenig hier verweilen?" なんて歌い出す。そもそもMelisandeは「メリザンデ」なのだ。
だから聴き始めの印象はドビュッシーというよりワーグナーか20世紀初頭のウィーン楽派の楽曲を耳にしているかのような奇妙な感触。でもそれもじきに馴れて、やっぱり聴こえてくるのは繊細に紡ぎ出された音の綴れ織だ。
ところで先ほど気づいたのだが、当ブログは今日のこの記事をもって「千五百回目」のエントリーに到達したのだそうだ。
よくもまあここまで三年と一か月、一日も欠かさず「たいした問題じゃない」ことばかり書き連ねてきたものだと、我ながら感心する。
誰のために書いているのか? それはもちろんほかならぬ自分自身のためだ。備忘録として有効なうえ恰好なボケ防止の手段にもなる。だからこれからも続けますよ。