先日、「古書 海ねこ」さんが南青山の古書日月堂の隣室で始めた「六日間限定ショップ」にちょこっと顔を出した際、ご主人のMongoさんが放出された秘蔵コレクションの棚から稀少な一冊を抜き出した。
懐具合が乏しかったが、これだけはなんとしても持ち帰らねばならなかった。いくら探してもみつからないCDブック(むしろ音楽付き詩画集というべきか)なのである。
コシミハル/詞文
赤木仁/絵
心臓の上
ファンハウス
1990
コクトーやバタイユ、サティやフランス六人組などの音楽を夙に偏愛するコシミハルが、金子國義門下のイラストレーター赤木仁と共同で思うさま楽しみながら創った、絵本のような体裁のオーディオブック。表紙は
こんなふうだ。
附属CDの収録曲がなかなかに凝っている。
サティ:
「潜水人形」 (レオン=ポール・ファルグ詞)
ねずみのアリア~アメリカ蛙~猫の歌
チャイコフスキー:
「子供のための二十四の小曲」より
木馬に乗って~病気のお人形~新しいお人形~マズルカ
ヒンデミット:
児童劇『街を作ろう』 (ローベルト・ザイツ詞)
マーチ~街を作ろう~子供は新しく来た人々のために街を見せる~私は車掌さんです~子供は "訪問ごっこ" をする
ベルク:
ナイチンゲール (テオドール・シュトルム詞)
チャイコフスキー+ドリーブ(コシミハル編):
バレエの破片(かけら)
ドビュッシー:
マンドリン
ラヴェル:
「マ・メール・ロワ」より
眠りの森の美女のパヴァーヌ~美女と野獣
編曲、ヴォーカル、ピアノ、アコーディオンほか/コシミハル
演奏/小原孝、上野耕路、細野晴臣
サティはフランス語で、ヒンデミットとベルクはドイツ語で歌われる。ドビュッシーの「マンドリン」はヴォカリーズで歌われる。あとは基本的にはピアノ独奏。
ただし絵本ではすべての曲にテクストが掲載されており、そちらは鈴木創士と浅岡弘子の日本語訳詞、チャイコフスキーとラヴェルにはコシミハル自身の散文詩、さらには全体の序として「レントより遅く」という詩がつく。
コシミハルの近代音楽アレンジものではこのニ年後にCD『La Voix de Paris』(1992)があり、こちらのほうが纏まりも完成度も高いと思われるが、このオーディオブックでは珍しいヒンデミットの児童劇『街を作ろう』の挿入音楽(1930)が独自のアレンジで収録されているのが嬉しい。コシのドイツ語がひどく覚束ないのはご愛敬。
このアルバム=オーディオブックのコンセプトを一言で表すなら「アンファンタンな黄金期への憧れ」だろうか。召喚された曲たちはいかにも種々雑多なのだが、無垢な幼少年時代を想起させるという一点で彼女のこよなき鍾愛を受けるに相応しいのであろう。赤木の自由闊達で伸びやかな装画が愉しい。