友人と落ち合って珈琲を飲んでいたら遅くなった。夜半から雨降りという予報を気にしながら帰宅。
昨夜は急な翻訳のチェックで遅くまでかかりきりだったので、さすがに眠たくてならない。でも深夜にBSで「ユーゴスラビアの崩壊」があるので寝てしまう訳にはいかないのだ。そこで疲れぬ程度に心なごむ音楽を。
「フランス近代ピアノ曲集 Le piano français de Chabrier à Debussy」
シャブリエ: スケルツォ・ヴァルス、牧歌
セヴラック: 騾馬曳きの帰還~ 組曲「セルダーニャ」
アーン: エグランティーヌ王子の夢 ~組曲「酔い心地の夜鶯」
サン=サーンス: 円舞曲形式による練習曲 ~六つの練習曲 第一集
ドビュッシー: ピアノのために、二つのアラベスク、歓びの島
ピアノ/マグダ・タリアフェロ1961年10月9、11日、パリ、ステュディオ・オシュ
Warner-Σrato-Tower Records WQCC-175 (2009)
これは懐かしくも心躍る一枚だ。
なんと愛情豊かで濃やかな演奏なのだろう。音色とタッチになんともいえない温かみがある。シャブリエの邪気のない軽妙さから、ドビュッシーの詩的な味わいまで。フランスの、フランスならではの、フランスにしかないエスプリとサンスを伴って、ブラジル出身のタリアフェロ女史が、誰にも真似のできない名人芸を披歴する。
1970年代の初め、日本コロムビアが「エラート1000」(だったかな?)シリーズと称して、ドゥーカン(vn)+コシェ(pf)のフォーレだとか、クレデール指揮の近代女声合唱曲集だとか、ラヴェルとルーセルの三重奏を集めた盤だとか、エラート・レーベルの古い音源を白地に花束をあしらった共通ジャケットにくるんで一枚千円の廉価盤としてどっと出した折に、最もよく愛聴したのがこのタリアフェロ女史の小品集だった。
カザルスに才能を見出され、パリでコルトーに師事した…というような経歴だけでは説明できない、屈託のない明るさと温かみ、はちきれんばかりの生命力はおそらくタリアフェロが持って生まれたテンペラメントなのだろう。悲しいほど僅かしかない彼女の稀少な録音がこうして今もCDで聴けるのは嬉しいことだ。
どれも珠玉のような名演なのだが、今回はレイナルド・アーンの知られざる佳作というべき「エグランティーヌ王子の夢 Les rêveries du Prince Eglantine」にうっとり夢心地になった。プルーストの親友=恋人だったこの洒落者作曲家はタリアフェロを贔屓にしてピアノ協奏曲を捧げたりしている。ほんの三分ほどの小品なのだが、どことも知れぬ夢幻の世界に誘ってやまぬ名演である。タリアフェロ恐るべし。
もう九十歳近い彼女が孫のような年齢の弟子ダニエル・ヴァルサーノに懇願されて、フォーレの「ドリー」を連弾したLPがどこかにあったはずだ。衰え知らずの矍鑠たる演奏だったと記憶する。いずれ棚から探し出して聴いてみたいものだ。