さっき寝惚け眼でネット検索をしていて、ハッと覚醒させられた。すぐに飛んでいきたくなるような展覧会なぞニッポンには滅多にないのだが、タイトルを見ただけでゾクッときた。なにしろ「
寝るひと・立つひと・もたれるひと」というのだから。HPに掲げられた前口上を引こう。
萬鉄五郎(1885-1927)作の重要文化財、《裸体美人》 は、不思議な作品です。草原に寝ているはずの裸婦が、視覚的なトリックにより、まるで立っているようにも見えるからです。
人間が大地に立つ、あるいは横たわる。そんな私たちにとってごくふつうの感覚を、時に絵画はさまざまな方法で揺るがします。
萬の代表作を手がかりに、今日の作品まで、当館のコレクションから約20点をご紹介します。
《裸体美人》は草原に寝そべる裸婦を描いています。
しかし萬は、裸婦を縦に置き、おまけに背後の草原を垂直に立ち上がるように描くことで、裸婦が「寝ている」のではなく、一瞬「立っている」と見えるよう、わざわざ工夫を凝らしています。
絵画とは一枚の平らな面であって、裸婦が横になるような奥行きは実際には存在しません。ここで萬は、壁にかけられた絵の中で、裸婦は実際に私たちに面して「立っている」のだ、と主張しているのです。(以下略)
まだ始まってもいないうちに喋々するのは早計なのだが、この展示には期待がもてそうだ。萬鉄五郎の『
裸体美人』は東京国立近代美術館にいつでも常設される作品なのだが、観るたびにつくづく摩訶不思議な絵だわいと、つい凝視してしまう。色彩や筆触の荒々しさもさることながら、横臥する人体を縦長の画面に納めるという発想がそもそも尋常でない。ジョルジョーネからマティスまで、誰ひとりとして思いつかなかった方法だ。
この尋常ならざるところが萬の萬たる所以である。聞くところに拠れば、彼は斜めに立てかけた戸板に新妻を寝かせて、ずり落ちそうな危なっかしいポーズをとらせたそうだ。しかも画室を真っ暗にしてランプの灯を頼りに描いたのだという。白日の下に晒される裸婦を、こともあろうになぜ暗闇で描いたのかも合点がいかない。そもそも「重要文化財」の肩書がこれほど似合わない絵もなかろう。強烈な作品だとは思うが、その真価や意図するところは誰にもわからないのだ。
今回の展示では出品作二十点というのも好感がもてる。
(6月13日につづく)