そんなわけで懸案の連載「
バレエ・リュスと日本人たち」が始まった。今後は月一回の割りで時代を追って書き継いでいく予定。
初回は以前に書いた原稿の手直し版だったからよかったのだが、今後はいずれ新稿も織り交ぜながら進めていくので、こつこつ調べながらの執筆となる。これはけっこう荷が重いゾ。
ともあれ百周年の祝いの花火だけは定刻にキチンと打ち上げた。
そこで一夜明けた今日は、余韻を味わうべく後夜祭のコンサートを催そう。
ニコライ・チェレプニン:
バレエ音楽 『アルミードの館』
ヘンリー・シェク指揮
モスクワ交響楽団
1994年11月、モスクワ、モスフィリム・スタジオ
Marco Polo 8.223779 (1995)
アントン・アレンスキー:
バレエ音楽 『エジプトの夜』
ドミートリー・ヤブロンスキー指揮
モスクワ交響楽団
1996年3月、モスクワ、モスフィリム・スタジオ
Marco Polo 8.225028 (1997)
前者は言わずと知れた第一回パリ公演初日の幕開けを飾る「始まりのバレエ・リュス」。テオフィル・ゴーティエに材を得たフランス王朝のロココ・バレエ。今では殆ど廃曲状態で滅多に上演される機会はない。音楽は華美にして絢爛、チャイコフスキーとR=コルサコフをこき混ぜたような塩梅だ。
後者はマリインスキー劇場で初演されたあと、ディアギレフの発案でほうぼう手直しされ、新作『クレオパトラ』として同じく第一回公演の「第二プロ」のメインを飾った。もっともこの改変でグリンカ、ムソルグスキー、R=コルサコフ、タネーエフ、グラズノーフ、チェレプニンの曲をあちこち挿入したので、ほとんど別物に近いのだが、今のところ聴けるのはこのCDしかない。これまたなんとも甘美な異国情緒に満ちた音楽。グラズノーフの『ライモンダ』に似ているかも。
この二作を聴く限り、こと音楽に関しては1909年の興行は20世紀芸術の幕開けとは程遠く、些かも革新的でなかった。バレエ・リュスの真骨頂はやはり翌年のストラヴィンスキー登場にとどめを刺すのだと今更ながら思い知る。
最後はとっておきの音源で締め括ろう。
リムスキー=コルサコフ:
『シェエラザード』抜粋
『真夜中の太陽(雪娘)』より 道化師の踊り
ニコライ・チェレプニン:
『アルミードの館』より 高雅な大円舞曲
ローベルト・シューマン:
『謝肉祭』抜粋
フレデリック・ショパン:
『レ・シルフィード』抜粋
エルネスト・アンセルメ指揮
バレエ・リュス管弦楽団
1916年、ニューヨーク
LYS 452 (1999)
こんな録音が後世に遺されたのは奇蹟に近い。1916年(!)バレエ・リュスのNY引越公演に際してスタジオ収録された。いずれも断片的な抜粋なのは収録時間の制約からやむを得まい。貧弱なアクースティック録音ながら、若き日のアンセルメの簡潔明瞭な音楽づくりが彷彿とする。このリズミカルな指揮で、復帰したニジンスキーがレオニード・マシーンと競演したのかと思うと興奮を禁じ得ない。
因みに、この稀少な音源は1980年代になんと日本でLP化されている。東京・中野にあった輸入レコード店「サンタ・ディスコス」の店主、渡邊三太郎さんが探しだし、自主制作盤として覆刻したのである。まだ世間でバレエ・リュスが喧伝される以前のことだ。恐るべき慧眼とは蓋しこのことだろう。