今日も所用で東京へ出向いた。其の帰りにちよつと寄り道。
表参道の青山通り沿ひの古本屋から連絡が入り、二月初めに問ひ合はせておいた書目が在庫の山のなかから見つかつたので取り置いてある由。もう二箇月も前のことゆゑ半ば忘れかけてゐたのだが、何はともあれ現物を手に取つてみやうと思ひ立つたのだ。
お目当ては昭和初年にわが国を訪れた舞踊家のプログラムと広告チラシ、それに関聯する雑誌類である。
世界的大舞踊家 サカロフ夫妻来演 帝国劇場(チラシ)
1931(昭和六)年1月
ルース・ペーヂ女史 クロイツベルク氏 舞踊公演(プログラム)
1934(昭和九)年4~5月
『舞踊世界』第一巻第一号「サカロフ号」
1934(昭和九)年9月
アレキサンダア クロチルド サカロフ舞踊公演 朝日会館(案内葉書)
1934(昭和九)年10月
いづれ劣らぬ稀少な資料であるに違ひない。当時の代表的な舞踊評論家であつた光吉夏彌、蘆原英了らの紹介記事や論評が読めるのが有益だし、各日の演目が詳細に記されてゐるのも難有い。
特筆すべきはルース・ペイジ&クロイツベルクのジョイント・リサイタル。シュールホフ、サティ、プーランク、ミヨー、モンポウ、ヴィラ=ロボス、レスピーギ、カセッラ、マリピエロ、シリル・スコット、ガーシュウィンの楽曲(ピアノ伴奏)が用ゐられてゐる事実は音楽史上に特筆さるべきであらう。
折角の機会なので店内をあちこち物色してみたのだが、この店は呆れる程に散らかつてゐる。そこが宝探しのやうで面白いと云ふ人もゐるだらうが、小生は古書店のかうした乱雑さを好かない。
埃塗れになつて戦前の「新響」すなはち今日のN響の演奏会チラシを発掘する。年代はすぐには判らないが、ローゼンシュトックが「ゼネラル ムジークデイレクター」を務めてゐる時期の定期公演の告知であり、ストラヴィンスキーの『ペトルーシュカ』やラヴェルのピアノ協奏曲が本邦初演されてゐるのが頗る興味深い。
七十年前の東京に思ひを馳せつつ地下鉄と電車を乗り継いで帰宅。駅からの道すがら、満開の夜桜越しに煌々と輝く満月(正確には十四夜であらうが)を見上げてひとり悦に入つた。