所用で終日ずっと埼玉にいて今しがたようやく帰宅。よく晴れた日なのに吹く風は冷たく、春爛漫とはいかなかった。道中の車窓から眺める桜もまだ見頃とは程遠い。
少し前に丸の内の丸善で見つけた本を持参し、往還の車中で読了。
戸ノ井達也
音楽を動員せよ
統制と娯楽の十五年戦争
~越境する近代 5~
青弓社
2008
戦時下の日本で音楽家がどのように動員され組織化され、いかに戦争と関わったかを検証した貴重な一冊。膨大な資料を博捜した労作だが、惜しむらくは俯瞰した視点からの組織論に傾きがちで、個々の作曲家の内面まで立ち入る暇に乏しい。山田耕筰、信時潔、橋本國彦、深井史郎の戦時下の活動については、それぞれ別途の詳しい考察が望まれよう。
いささか意気消沈させる一冊だった。なので頁を閉じて、残りの時間は心なごむCDを聴く。先日ふと手にして以来すっかり気に入っている一枚だ。
ブラームス:
ヴァイオリン・ソナタ 第一番、第二番、第三番
ヴァイオリン/イリヤ・コロル
ピアノ/ナターリヤ・グリゴリエワ
2006年5月、ヴィーン、ベートーヴェンザール
Challenge Classics CC72194 (2007)
ウクライナ出身のコロルは普段は古楽器アンサンブルでリーダーを務める。したがってこのブラームスも極力ヴィブラートを抑えた演奏。なのに浪漫の薫りが仄かに漂うのは何故だろう。ピアノのグリゴリエワは1870年製作の渋い響きの古ピアノを端正に奏でる。ふたりはオーストリアの室内アンサンブル「モダンタイムズ_1800」の創設メンバーだという。両者の音色の「古くて新しい」響き合いが実に好もしいのだ。
こんな密やかな「雨の歌」なら何度でも繰り返し聴きたい。そう思ったところで電車は最寄りの駅に着いた。