いやあ草臥れたのなんのって。
正午に京浜急行の上大岡駅に集合して、そこから横浜市内を散策する。いくつもの公園を訪ね歩いて最終的には中華街に到るというのが本日の課題である。このハイキング・ツアーを企画したN氏に拠れば、横浜の真価を知るには平坦な表通りばかり歩いていては駄目で、坂道を上り下りしてその地形を体感するのが肝腎なのだ。
というわけで、ひたすら歩いて歩いて歩き通した一日。参加者は総勢八名。
上大岡駅前からいきなり急なスロープをどこまでも延々と上り、少し下ると、緑に囲まれた趣のある公園に出た。ここが久良岐(くらき)公園。池や芝生や桜の木立がある。花見にはまだ早かったが、あちこちで弁当を広げる家族連れを尻目にひたすら歩くと、深山幽谷めいた場所に出た。ここにはなんと能舞台まであって吃驚。1973年開設というからさして歴史のある公園ではないのだが、港南区と磯子区に広がる一帯は野趣に溢れ、懐が深い。
ここからしばらく市街地を歩いて小高い丘に上がると「三殿台(さんとのだい)遺跡」がある。さして広い敷地でないが、ここに縄文・弥生・古墳時代にまたがる集落跡が発見されたのだという。
小ぢんまりした資料館で土器を見たり、竪穴式住居の復元家屋に入ったりしてワイワイ騒いでいたら、親切な説明員の方が「貝塚の出土品をお目にかけよう」と声をかけてくれた。併設された考古館の二階に招じ上げられると、貝塚の地層断面をそのまま固めて剥ぎ取った実物標本が展示されていて、それを詳しく解説して下さった。なんでも縄文時代には地球温暖化に伴って海面が上昇し、この近辺まで海が入りこんできた由。なので出土する貝も現生種と異なり、温暖な水温を好む種類のものが中心なのだという。う〜ん、実物を前にしての説明は説得力があったなあ。
遺跡で思いのほか時間を取られてしまった。勾配のついた階段状の歩道橋を渡って、そこから滝頭、丸山、坂下町といった界隈をとぼとぼ歩く。さすがに脚は棒のよう、誰もが寡黙になる。
時の止まったような古めかしい商店街でお婆さんがひとりでやっている鄙びた惣菜屋に遭遇。思わずここで立ち止まり、コロッケやメンチカツを揚げてもらい、これをツマミに缶ビールをゴクゴク呑んだ。う〜ん、旨い。
再び元気づいたところでまたぞろ歩き出したが、アルコールを補給したのが裏目に出て足許が覚束ない。引率のN氏から「だから休息せずに歩き続けるべきなのだ」と叱咤される。
ほろ酔い気分なのでどこをどう歩いたのか定かでないが、急峻な坂を上ったらいきなり典型的な米軍ハウス群が姿を現した。シンプルな平屋一戸建、広々とした敷地。庭先にバーベキュー鍋が置かれている。今も現役で使われているらしく、この一郭は異国さながらだ。往時の狭山を彷彿とさせる。
そこからしばらく歩くと高台の高級住宅地に出た。住居表示は根岸。誰かが「ドルフィンはすぐ近くだ」と呟く。この歴史あるカフェテラスは知る人ぞ知るユーミンの「聖地」である。いつぞや(といっても三十数年前だが)ここで海を見ながら高価なソーダ水を飲み、紙ナプキンを記念にと持ち帰ったことがあったっけ。同行のH夫人にその思い出話をしたら、「ああ、そのときのナプキンならユーミンの直筆入りで今も家にある」と事も無げに言う。さすが初代ファンクラブ会長だけのことはあるわい。因みに、ユーミンに書いてもらったその「直筆」とは「忘れないで」の一言であるに違いない。
さて折角ここまで来たのでソーダ水の一杯でもと思ったが、先を急ぐハイキングの途中なので玄関先で写真を撮るだけで今日は我慢。
後ろ髪を引かれつつ少し歩くといきなり視界が開け、広々とした芝生が眼前に拡がる。根岸森林公園だ。
(まだ書きかけ)