千葉から吉祥寺までは遠い道のりだ。しかも時間がまだたっぷりある。
なので、荻窪でちょっと途中下車。久しぶりに「ささま書店」に立ち寄る。品揃えの良さとリーズナブルな値づけで定評ある古書店だ。間口は狭いが奥行きがあって架蔵書目の量が半端でないので、今日は急ぎ足で「ちょっと見るだけ」。収穫はあった。
高橋康也
ウロボロス
文学的想像力の系譜
晶文社
1980
ラブレー、シェイクスピアからジョン・ダンを経由してリア、キャロル、エリオット、ベケット、さらにはデュシャン、ブランショ、ボルヘスまで。博覧強記(狂気?)を地で行ったようなめくるめくラインナップだ。旧著ながら軽快そうな筆致に惹かれ、思わず手にしてしまう。しかも署名本。
千田是也・岩渕達治 訳
ブレヒト教育劇集
未来社
1967
今も新装版で読めるが、この最初の版でも架蔵していたくなった。なにしろたった五百円で『リンドバーグの飛行』『ヤーザーガー/ナインザーガー』『バーデン教育劇』『処置』『例外と原則』『ホラティ人とクリアティ人』のすべてが読めてしまう。これはもう理不尽というべき安さだ。
工藤美代子
聖林からヒロシマへ
映画カメラマン・ハリー三村の人生
晶文社
1985
稀代の名評伝。ハリウッドでグレッグ・トーランドに師事したキャメラマン「ハリー三村」こと三村明が帰国後、黄金時代の日本映画を担ったのは特筆さるべき事件であろう。太平洋を易々と越えた三村の足跡は、革命期のソ連からフランスのジャン・ヴィゴの許へ、更にはハリウッドのエリア・カザンの傍らへと赴いたボリス・カウフマンのそれに比肩されよう。
つい先日、マキノ雅弘監督の傑作『清水港の名物男 遠州森の石松』(1958)を観た際スタッフのクレジットに三村の名を発見して、この本を再読したいなあと思っていた矢先の再会。躊躇せず手に取る。
岡谷公二
アンリ・ルソー 楽園の謎
新潮選書
1983
これまた稀代の名著。税関吏ルソーの虚実織りなす生涯を鮮やかな筆捌きで活写する。たしか文庫版もあった筈だが、懐かしい初出本でこそ架蔵したい。「南方に惹かれる芸術家」の系譜を生涯かけて追求する岡谷さんの面目躍如たる一冊。
ユリイカ
増頁特集 カレル・チャペック
青土社
1995年11月号
そんな筈はないのだが…と目次に目を通してみると、どうやらこの特集号を架蔵していないらしい。恥かしいことだ。これではならじと慌てて入手。千野栄一さんがまだ健在で沼野充義と丁々発止の対談を繰り広げるのが今となっては貴重極まりない。
おや、そろそろ時間だ。