東京では例年より一週間ほど早い開花宣言。サクラサク。とはいうものの、まだほんのちょこっとだけ。
昼前から竹橋の近代美術館の図書室にお籠り。いつもの連載「旅するアート」のための調べ物。例に拠って切羽詰まってからの泥縄作業だ。
今日の課題は神原泰(かんばら たい)。大正期に尖端的で破天荒な油彩画を描いた人だ。あれこれ当たってみたのだが、この画家もどうやらこれまでさしたる研究が殆どなされておらず、まして特定の作品(これこそが今日の探索対象なのだが)についての個別研究など絶無といってよい。嗚呼。
二時間半ほどかかって、それでもほんの少しの手懸かりが得られたので、まあこれでよしとしよう。
そのあと少し展示室を覗こうかとも思ったが、春風に誘わるように戸外へ出て、そのまま神保町方面へと歩き出す。こんな麗らかな日和に散歩をしない手はない。
梅田英喜さんの蓄音器店「梅屋」にちょっと立ち寄り、お茶とお菓子を御馳走になったあと、音楽古書の「古賀書店」へ。ガリーナ・ヴィシネフスカヤの
『ガリーナ自伝』(みすず書房、1987)を手に取る。二十年ほど前に図書館で借りて読んだきりなので、つい心惹かれてしまう。掘出物はほかにもあった。
深尾須磨子 詩
橋本國彦 作曲
黴 Kabi
共益歌曲楽譜
1929
深尾須磨子 詩
橋本國彦 作曲
斑猫 Han-myo
共益歌曲楽譜
1929
少し前この店を覗いたときもちょっと心惹かれた昭和初年の楽譜二冊。なぜかまだ売れずに棚にあった。橋本國彦(1904-1949)といえば、交響曲よりも何よりも「お菓子と娘」が人口に膾炙していよう。「お菓子の好きな 巴里娘~」という西条八十の歌詞が口ずさめる人は今なお少なくないだろう。どこか日本人離れした上質なバタ臭さが橋本の作曲の持ち味である。
上の二曲はそれと相前後して書かれた芸術歌曲。ともに1928年の作。なんだか春に相応しいような気がして、ふと手に取ってしまう。
レオシュ・ヤナーチェク 声楽曲対訳全集(改訂増補版)
日本ヤナーチェク友の会 編
2008
これは宝物のような本。2004年に出て永らく品切が続いていた旧版を大幅に膨らました決定新版である。ヤナーチェクのオペラ以外の主要声楽曲を懇切な解説と対訳付で収録したもの。裨益することこの上ない。
個人的には鍾愛の室内楽伴奏付き重唱曲
「わらべ唄 Rikadla」(本書での呼称は「韻ふみ歌」)が、元になったヨゼフ・ラダらの挿絵ともども全収録されているのが嬉しい。ヤナーチェク好きには堪えられない一冊だ。
思わぬ収穫を得て「古賀書店」を後にし、そのまま駿河台へ。ディスクユニオンにちょいと立ち寄ったが、こちらではさしたる獲物ナシ。口惜しいので一枚を拾い上げる。
スクリャービン: 法悦の詩
ベルリオーズ: 幻想交響曲
レオポルド・ストコフスキー指揮
ニュー・フィルハーモニア管弦楽団
1968年6月18日、ロンドン、ロイヤル・フェスティヴァル・ホール(実況)
BBC Legends BBCL 4018-2 (1999)
というわけで、これにて東京散歩は終了。さすがに草臥れたなあ。