またぞろ連載「旅するアート」の準備にかからねばならぬ。採り上げる作品は疾うに定まっているのだが、手許に資料がまるでないのは前回の松尾芭蕉とおんなじ。こういうとき頼りになるのは地元の中央図書館だ。予めHPで蔵書のアタリをつけておいて、昼過ぎに訪れた。
めぼしい関連書籍を四冊借り受けたら結構な重さだ。これらを大急ぎで通読して、とにかく短いエッセイを一本書かねばならない。締切は今度の金曜日。まあ、なんとかなるだろう。
借り出したうちの一冊をざっと通読。
岡谷公二
絵画のなかの熱帯
ドラクロワからゴーギャンへ
平凡社
2005
これはたいそう有益にして見通しのよい本だ。アルジェリアやモロッコや南太平洋の島々に憧れたヨーロッパ画家を列伝ふうに採り上げ、彼らがなぜ「南」に憧れたのかを当時の植民地主義の文脈で平易に解き明かす。サイードの大著『オリエンタリズム』を読み直すのも骨だなあ、と思っていたのだが、どうやらその必要はなさそう。
『アンリ・ルソー 楽園の謎』にせよ、『島の精神誌』にせよ、『南海漂泊 土方久功伝』にせよ、岡谷さんの著作はいつも一貫した関心と視座に貫かれていて見事というほかない。本書もその流れの上にあって、「なるほど、そうなのか」と膝を打つことしきり。それにしても画家たちが一様に抱いた「南への憧憬」には、やむにやまれぬ切実な希求が感じられる。ヨーロッパは北国なのだ。
とりあえず執筆のための材料が揃ったのでほっと一息つく。
千葉駅まで引き返し、少し時間がありそうなので、近くの山野楽器でCDを渉猟。取り立てて発見はなかったのだが、アンセルメの指揮するラヴェルの『子供と魔法』ほかの再発廉価盤(豪Eloquence)を手に取った。LP時代から馴染みの演奏なのだが、今回のは「猫ジャケ」なので、持っていてもいいのかな、と。