時間を気にせず表参道から宮益坂へとそぞろ歩く。せっかくの機会なので久しぶりに「巽堂書店」と「中村書店」に立ち寄ってみる。良書を安価で商う昔ながらの古本屋らしい古本屋の健在を寿ぐ。
収穫はそこそこ。昔の岩波新書から、名取洋之助の『写真の読みかた』(1963)と伊東三郎の『エスペラントの父 ザメンホフ』(1950、1965改訂)の二冊。現今の衰退した岩波書店からは想像もできない気骨ある稀代の名著。疾うに架蔵するが誰か友人のために買う。どちらも150円という申し訳ない安さだ。
月刊誌『日本児童文学』1962年10月号「秋田雨雀追悼号」。これは資料性が頗る高い。劇作家にして児童文学者、エロシェンコの盟友でエスペラントの実践者、筋金入りの左翼文化人であり、日露文化交流史を考えるうえで雨雀の存在は無視できない。この特集号で寄稿者に村山知義、山田清三郎、小牧近江、伊東三郎、中村星湖がずらり顔を揃える壮観も、かなり詳しい「著作年表」の作成者に鳴海完造が名を連ねるのも、この時代ならではの豪勢贅沢。裨益するところの大きい一冊。
ところで今日の最大の収穫は次の書目だ。
ウィリアム・サロイヤン
清水俊二訳
わが名はアラム
晶文社
1980
瀟洒な共通デザインが印象的な「文学のおくりもの」の第28番。別段珍しくも探しにくくもない平凡な翻訳書なのだが、それでもこれは必読必携の一冊だと言いたい。その理由についてはいずれ別項を立てて詳述せなばなるまい。
気づくと手提げ袋がずしりと重たい。そうこうするうちに渋谷駅に到着。まだ余力がありそうなのでHMVまで足を延ばすとしようか。