昨日のことになるのだが、グルダのバッハを手にしてほくほく帰路につき、東京駅構内でちょいと本屋に立ち寄ったら、ここでも心惹かれる一冊を見出した。『文學界』の最新号(二月号)である。おお、表紙に
ドナルド・キーン
「日本人の戦争──作家の日記を読む」
と大書されている。巻頭のなんと百ページを占める読み応え充分の大作である。
ドナルド・キーンさんの日本語との出会いに太平洋戦争が計り知れない役割を果たしたのはよく知られていよう。コロンビア大から海軍の日本語学校に進み、通訳官として太平洋の島々を転々とし、日本人捕虜と密に交わった。このときキーンさんは日本兵が戦場に遺した日記を数多く読む機会があり、日記こそは日本人の心を探るための最良の媒体であると直感する。
古今の日記文学を渉猟した『百代の過客』正・続(朝日新聞社)は、キーンさんがこの原体験から発して、長い歳月の果てに上梓するに至った実に含蓄の深い日本文学史である。
今回の長篇評論はそのさらに延長線上にある果敢な試みであるとともに、八十六歳になったキーンさんが初心に戻って、自らの日本研究のいわば原点に立ち戻って、改めてあの戦争が日本の文学者たちの心をどのように刺激し、挑発し、呪縛したのかを丹念に読み解いた論考である…らしい。
…などと言葉を濁すのは、実は少し読みだしたところで、熱烈なキーン・ファンであるところの家人に横取りされ、その続きが読めないからだ。後日また手許に戻ってきたら通読して感想をしたためよう。