あれやこれや慌しく、一月も疾うに半分が過ぎ去った。ふとカレンダーを見遣って、はたと気づいた。今日は彼女の誕生日ではあるまいか。遙か昔、身近に感じていた彼女の。
その頃、小生は彼女にぞっこん惚れ込んでいた。まだ二十歳だというのに、溢れるほどの才能で煌めいていた。キャロル・キングのような、という評言を彼女はひどく嫌っていたっけ。私は私よ、他の誰とも違うのよ、というわけだ。
私の音楽はメジャーのはずなのに、どうして評価されないのだろう。そう口惜しがっていた。歌唱力にまるで自信がない、だから本当はソングライター志望なの、とも呟いていたっけ。
東京じゅうに彼女のファンが数十人しかいない、そんな時代があったなんて、今ではとても想像できないだろう。本当に素晴らしいものは世に知られず、ひっそりと隠れていた。
あれから幾星霜。気がついたら三十五年が経った。
今日は彼女の五十五歳の誕生日なのだ。