昨年来の風邪をまだ振り払えないまま這いずり廻る日常が続いている。
こういうときこそ忙中閑あり、ひとときの憩いが欲しくなる。ということで新宿のタワーレコードにちょいと立ち寄る。
やっと入荷した BBC Music Magazine を手に取る。
表紙に "Hallelujah for Handel" と大書されているのは今年がヘンデル・イヤー、すなわち没後二百五十年目にあたっているからだ。十七頁にわたる大特集が嬉しい。ドイツ時代、イタリア時代、イギリス時代を手際よく叙述し、エピソードやゆかりの場所や人物を紹介する。昨年五月に足を運んだ倫敦ブルック・ストリートの旧宅博物館 Handel's House が採り上げられているのが懐かしい。
ジョン・エリオット・ガーディナー、エマ・カークビー、ポール・マクリーシュ、ケイト・ロイヤルらが「わがヘンデルこの一曲」を語る特集が面白そう。標題は "By George!" と来た!
米国の不世出のコントラルト、黒人女性として初めてメトロポリタン歌劇場の舞台に立ったマリアン・アンダソンの小特集も興味深い内容だ。
痛ましいのは巻頭に載った指揮者リチャード・ヒコックスのオービチュアリ(追悼記事)。英国楽壇の喪失感の大きさが如実に窺われる文章だ。裏表紙の Chandos の広告も全面ヒコックス尽くし。「1988年の『ゲロンティアスの夢』を皮切りに282の録音を遺した」とある。
もう一冊、衝動的に手に取ったのが次の一冊。
Bice Horszowski Costa (ed.)
Miecio:
Letters and Postcards of Janina Rosa Horszowska 1900-1904
Erga Edizioni
2008
標題の「ミエチオ」とはミエチスワフの愛称。百一歳の長寿を全うしたポーランドのピアニスト、ミエチスワフ・ホルショフスキの幼少期のニックネームである。1900年、八歳の天才少年ミエチオは母に連れられて音楽の都ウィーンに留学する。
本書はそのミエチオの母が故国の夫に書き送った百三十枚の絵葉書を集めた本。
カラーで複製された美麗な絵葉書の余白という余白には細々したペン書きで息子の成長ぶりや大都会ウィーンの近況が事細かに綴られる。もちろんポーランド語で。幸い本書にはそのすべての英訳が添えられ、附録にホルショフスキ壮年期の未発表録音を収めたCDが付く。
九十五歳のホルショフスキの生演奏を間近に聴く幸運に浴した者として、これはなんとも感慨深い本だ。いささか値が張る一冊だが、一も二もなくレジに持参。こういう本にどうも小生は弱いのである。