雲ひとつなく晴れわたった連休二日目。昨日は年越し蕎麦がわりに旨い牡蠣蕎麦にありついたが、今日はさしずめ初詣がわりにどこかへ出掛けるとしよう。
行き先は江東区新木場の夢の島。
この場所に降り立つのはたぶんこれが初めてだ。
学生生活を打ち切って東京に出てきてから数年間、のんびりと怠惰な無頼生活を送った。多くの友人ができて一緒に寝食を共にし、名画座やライヴハウスに足繁く通い、珈琲屋や古本屋で多くの時間を過ごした。
とりわけ忘れがたいのは8ミリ映画の製作に打ちこんだことだ。最初に撮ったのはモノクロのギャング映画で、題名を『黄土を血に染めろ』といった。主人公は孤独な殺し屋で、組織から追われて恋人との逃避行の果てに人里離れた土地に流れ着く。最後は敵味方入り乱れての銃撃戦になり、荒涼たる曠野で主人公を含め全員が死んでしまう。題名にある「黄土」とはすなわち黄泉の国=死地であり、この最後の死に場所こそが映画の要、原イメージなのである。
「キャメラが360度パンしても人家や電信柱が写らないような荒涼たる原っぱ」というのがシナリオが要求するロケーションの条件。東京から日帰りできるような場所に、そんな荒れ果てた土地があるのだろうか。監督を務めた友人のYはほうぼうにロケハンに出掛け、候補地のひとつとしてここ夢の島にも足を運んだのだという。
見渡す限り塵芥の埋立地。人影はおろか木立すらない荒涼たる眺めは文明の墓場=黄泉の国そのもので、まさしく皆殺し映画のラストにぴったりだったはずである。惜しむらくは、東京湾岸越しに、当時すでに建ち始めた高層ビル群が遠望されてしまい、シナリオが想定する「人里離れた原野」のイメージとはどうにも相容れないので、ここでの撮影はやむなく断念した…という顛末をY君から聞かされた。1975年のことだ。もう三十四年も前の話である。
(明日につづく)