今日で十月もおしまい。新文芸坐の加藤泰特集も最終日。
併映の『炎のごとく』は小生がただひとつ、1981年の封切日当日に観ることができた思い出深い加藤泰作品なのであるが、どうしても都合がつかず再見は叶わず。ということで最後の一本を観る。
加藤泰監督作品
日本侠花伝
1973
東宝
原作・脚本/加藤泰
撮影/村井博
美術/阿久根巌
音楽/鏑木創
出演/
真木洋子、渡哲也、任田順好(沢淑子)、曾我廼家明蝶、北大路欣也、安部徹、加藤剛 ほか
二時間半になんなんとする堂々たる大長篇、しかも加藤泰が生涯で唯一、ひとりで書きあげたオリジナル脚本による作品である。もともとは日活で浅丘ルリ子(!)主演を想定していたという。
とかく毀誉褒貶のつきまとう作品であるが、私見ではこれこそ加藤泰の会心の作、渾身の一本、悲願の一本であり、とにかく全編に凄まじい執念が込められていて、フィルムをちぎっただけで鮮血が迸りかねない。
本作のほか目ぼしい主演作のない真木洋子だが、この一本が残っただけで女優冥利に尽きるだろう。体当たりというほかない壮絶な演技、その真っ直ぐな眼差しが初々しく美しい。
そして渡哲也の眦の凄まじさ! 何事かを決意し、瞬きひとつせず凝視するその眼、その視線の凶暴なまでの強さ、暗さ、禍々しさがこの映画全体を支配している。加藤泰のあらゆる作品に通底する「監督の眼差し」がついに顕在化し、物陰から常にヒロインを見つめ続けるといった趣だ。もしも本作が渡哲也=浅丘ルリ子の共演で実現していたら…とても想像できない。
これこそ加藤泰の「最高傑作」と今日は言いきってしまいたい。
(追記)
真木洋子が2000年に五十一歳の若さで世を去っていたことを今知った。