芝居好きの妹に誘われて、家人とともに日比谷へ出かけた。久しぶりの観劇である。それも永く愛してやまない英国の劇作家の代表作。
14:00- シアタークリエ
私生活 Private Lives
台本/ノエル・カワード
演出/ジョン・ケアード
翻訳/松岡和子
美術/二村周作
照明/中川隆一
音響/本間俊哉
衣裳/小峰リリー
出演/
内野聖陽 (エリオット)
寺島しのぶ (アマンダ)
中嶋朋子 (シビル)
橋本じゅん (ヴィクター)
中澤聖子 (ルイーズ)
カワードの『私生活』を観るのは、1999年6月のロンドン(リトルトン劇場)、2006年9月の東京(青山円形劇場)に続いてこれが三度目。二度目の観劇記録は当ブログにもちょっと書いた(
→ここ さらに
→ここ)。
五年前に離婚した夫婦(エリオットとアマンダ)がそれぞれ再婚相手とハネムーン旅行のさなか、同じ日に、同じドーヴィルの、同じホテル、同じ階のスイートで、こともあろうに隣室同士になってしまう。喧嘩別れしたはずのふたりだが、目と目が合った途端「焼け棒杭に火がついた」。
前半の第一幕は、フランスの保養地ドーヴィルの瀟洒なホテルの隣り合ったヴェランダが舞台。演劇史上に名高い再会場面だ。
今回のエリオットとアマンダは「バツイチ」というには見かけが若すぎる気がしたが、台本を読むとご両人は三十そこそこらしいので、今回のキャスティングは案外正解かもしれない。とはいうものの、この場面ではもうちょっと抑制されたスタイリッシュな役作りが求められよう。分別盛りのふたりが思わず一線を踏み越えて…という微妙な心理の綾が浮かび上がってこない。台詞の応酬があっけらかんとニュアンスに乏しく、ややもすると漫才コンビの掛け合いのよう。
このあたり、演出家が英国人であることの限界かもしれない。日本語の細部については役者たちの裁量に委ねられているため、ついつい表情過多、もしくは一本調子に傾きがちである。個々の台詞と仕草とが一致せず、ギクシャクした印象が拭えない。これはヴィクターとシビルについても同様だ。「台詞がすべて」であるカワード劇にとって、これは大きな失点だろう。
今日の収穫はこの上演用に新訳されたという松岡和子の翻訳台本。細かな言い回しまで原作に忠実だし、何より耳から聴いて理解しやすい日本語なのが嬉しい。役者たちの発声も概ね流暢。とりわけ寺島しのぶの滑舌の良さはさすがだ。昨日スクリーンでご母堂の謦咳に接したのも何かの縁か。
ここで二十分の休憩。後半の第二幕・第三幕については明日にしよう。