今日も性懲りもなく新文芸坐。加藤泰特集に駆けつける。「緋牡丹博徒」シリーズの第七作と第三作。
加藤泰監督作品
緋牡丹博徒 お命戴きます
1971
東映
脚本/大和久守正、鈴木則文、加藤泰
撮影/わし尾元也
美術/吉村晨
音楽/木下忠司
出演/
藤純子、鶴田浩二、待田京介、若山富三郎、汐路章、河津清三郎、大木実、内田朝雄 ほか
緋牡丹博徒 花札勝負
1969
東映
脚本/鈴木則文、鳥居元宏
撮影/古谷伸
美術/富田治郎
音楽/渡辺岳夫
出演/
藤純子、高倉健、嵐寛十郎、小池朝雄、沢淑子、若山富三郎、山本麟一、柴田美保子 ほか
第七作『お命戴きます』は遠い昔、オールナイト上映で観たきり。驚くほど良好なプリントで、鮮烈な色彩に思わず息を呑む。
前作『お竜参上』に続く作品だというのに、何もかもが裏目に出てしまった感が否めない。公害問題(鉱毒)を絡めた脚本に難があるのか。いや、それだけではあるまい。シリーズそのものが飽和し、失速し始めているのだ。加藤泰の画面設計はますます冴えわたるのだが、個々の場面が突出するばかりで、どの人物も陰影やふくらみに乏しいのはどうしたことか。
実はこの一本だけ観て帰ろうかと思ったのだが、気が変わった。もう存分に記憶しているはずの『花札勝負』を、今一度しかと味わっておきたくなったのだ。
これまでセピアに変色したプリントばかり観ていたせいか、冒頭の線路のシーンが晴天の下で撮られていたことに驚かされる。
さすがに、そのあとは熟知した映画が熟知したプロットどおりに進む。とはいうものの、瞬きするのも躊躇われるほど凄い場面の連続だ。キャスティングの妙にも観惚れる。アラカンの古武士のような佇まいが風格充分だし、小池朝雄のふてぶてしい悪漢ぶりも堂に入っている。清川虹子の女親分のきっぷのよさ、沢淑子の「偽お竜」の不思議な存在感。もちろん、健さんの登場場面はどこもかしこも申し分ない。物語と画面づくりがぴたりと一致し、激情のせめぎ合いと秘めやかな情感とがふたつながら匂い立つ。
ひょっとして加藤泰の最高傑作はこれかもしれない。もっとも『車夫遊侠伝 喧嘩辰』も、『骨までしゃぶる』も、『男の顔は履歴書』も、『日本侠花伝』も、それぞれに「最高傑作」なのであるが。