今夕も新文芸坐の加藤泰特集の最終回に駆け込む。
加藤泰監督作品
浪人八景
1958
東映
原作/山手樹一郎
脚本/鈴木兵吾
撮影/伊藤武夫
音楽/山田栄一
美術/鈴木孝俊
考証/甲斐庄楠音
出演/
市川右太衛門、藤田進、千秋実、堺駿二、志村喬、里見浩太朗、徳大寺伸、雪代敬子、長谷川裕見子 ほか
間違いなくこれは未見。錦之助主演の快作『風と女と旅鴉』と同じ1958年の作品なので期待したが、いささか肩透かしの印象。いかにも50年代の東映オールスター時代劇らしい一本で、なんとカラー作品、しかもニュープリントらしく状態がたいそう良好。とはいうものの、まだ加藤泰らしさは殆ど認めがたく、右太衛門映画にふさわしい明朗さは好もしいけれど、それ以上でも以下でもない。この四年後に『瞼の母』が、六年後に『幕末残酷物語』が撮れてしまうとはちょっと想像できない。
車夫遊侠伝 喧嘩辰
1964
東映
原作/紙屋五平
脚本/加藤泰、鈴木則文
撮影/川崎新太郎
音楽/高橋半
美術/井川徳道
出演/
内田良平、桜町弘子、曾我廼家明蝶、河原崎長一郎、藤純子、大木実、近衛十四郎、ミヤコ蝶々、南都雄二、北島三郎 ほか
開巻一番、ああ、これこそ加藤泰だ、と思った途端、もう時の経つのを忘れて夢中で見入ってしまう。
直情径行の人力車夫がひたむきな生き方を貫き、全篇を文字どおり「突っ走る」。どの役者もこれがベスト・アクティングではないかと思うほど、素晴らしい表情をしている。よく考えるとハチャメチャな物語なのだが、それを不自然だと思う間もない息もつかせぬ展開と、有無を言わせぬ圧倒的な演出力と画面設計に唸ってしまう。私見では、これ一本のために黒澤明の全作品を溝に捨ててもいい。
終わってみると一時間半ちょっとしか経っていない。これだけ濃密な内容だというのに!
遙か昔、映画好きの友人ナベさんがアンゲロプロス(だったかベルトルッチの『1900年』だったか)を見終わったとき、ふと「素晴らしかったケド、加藤泰なら一時間半で撮れる」と呟いた一言を思い出した。そのときは暴言だと思ったけれど、蓋し至言でもあったなあと今にして感じ入る。