連載原稿はめでたく仕上がった。朝まだ暗いうちに起き出して書き始め、どうにかこうにか仕上げて編集部に送った。久しぶりに締切日に間に合ってホッと一息つく。
東京で用事を済ませると、夕方というのにもう眠たい。このまま家路につこうか、どうしようか。
さんざん逡巡した挙句、池袋に出た。小雨のそぼ降るなか歓楽街を歩く。この道筋を歩くのは何年振りだろうか。懐かしい文芸坐が閉館してからというもの、すっかり足が遠のいた。棲家が練馬から千葉になったも、ここと縁遠くなった一因だろうか。
リニューアルした新文芸坐も、足を踏み入れるのは今日が初めてである。以前の文芸坐と同じ場所なのだが、パチンコ屋と一体化した立派なビルの三階にあり、エレヴェーターで昇るというのも昔とまるで異なるし、途中入場を許さないというシステムも、出入り自由だった昔とは大違いである。時代が変わったので、名画座も変わった、ということか。硝子張りの喫煙ルームでおとなしく煙草をふかしてから、お行儀よく行列に並んで休憩時間が来るのを待つ。
さて、ここで今日から日替わりで加藤泰監督の連続上映がある。全十六作。ほとんど観ているはずなのだが、久しぶりに再見したいものがいくつかある。まずはこの一本。
加藤泰監督作品
幕末残酷物語
1964年
東映
脚本/國弘威雄
撮影/鈴木重平
美術/富田治郎
音楽/林光
出演/
大川橋蔵、藤純子、河原崎長一郎、大友柳太朗、木村功、西村晃、内田良平、中村竹弥 ほか
加藤泰はほとんど観ている…はずだったのだが、観始めてすぐ本作は未見だったことに気づいて愕然。しかもこれは途轍もない傑作だった。本作を知らずして、平気で加藤泰を云々してきたことを深く恥じた。
とにかく新撰組を徹頭徹尾、非情な内ゲバ集団として描ききっている。仲間同士の殺戮に次ぐ殺戮。陰惨そのものの血みどろのドラマが展開されるのだが、國弘の脚本が水も漏らさぬ緻密な仕上がりなのと、各人に注がれる監督の眼差しの深さと厳しさゆえに、この映画はリアルな残酷時代劇にとどまらなかった。むしろ人間の業を浮き彫りにするギリシア悲劇のような気品と格調を感じずにはいられない。
(まだ書きかけ)