せっかく東京へ出たのだからと西銀座にちょっと立ち寄り、HMVで月刊音楽誌 BBC Music の最新号を手に取る。「英国音楽750年史」という大仰な特集なのだが、附録CDにディーリアスの「ブリッグ・フェア」が収録されているので、一も二もなくゲット。アンドルー・デイヴィスの指揮だという。これは聴いてみたい。
そのまま立ち去ろうとしたら、新譜の棚で小生を呼ぶかすかな声あり(空耳か)。思わず振り返ると、そこにはこんなディスクが待ち受けていた。
エルガー: チェロ協奏曲*
プリオー・レニエ Priaulx Rainier : チェロ協奏曲**
ラッブラ: チェロ・ソナタ ト短調***
チェロ/ジャクリーヌ・デュ・プレ
マルコム・サージェント 指揮* ノーマン・デル・マー指揮**
BBC交響楽団
ピアノ/アイリス・デュ・プレ***
1964年9月3日、ロンドン、ロイヤル・アルバート・ホール (プロムズ実況)* **
1962年7月6日、チェルトナム・フェスティヴァル (実況)***
BBC Legends BBCL 4244-2 (2008)
まだまだ残されているに違いないデュ・プレの遺産。今回はサージェント卿と組んだ1964年プロムズ実況のエルガー(従来あった非正規盤ライヴは1963年の演奏)、嬉しいことにステレオだ。同じ日に世界初演されたレニエ女史の新作協奏曲も、数少ないデュ・プレの現代ものとして貴重。ラッブラのソナタももちろん初出…ということで、これは聴かずにはいられない。
レジに持って行くと、店員が「二点買うと10パーセント引になる」という。この甘言につられ、なおも物色すると、こんどはこんな一枚を見つけてしまう。同じく「BBC レジェンズ」からの新譜だ。
ショスタコーヴィチ: 交響曲 第十二番*
ショスタコーヴィチ: 交響曲 第六番**
ヨハン・シュトラウス(二世): ニチェヴォ・ポルカ***
ヨハン・シュトラウス(二世)(ショスタコーヴィチ編): 観光列車ポルカ***
ヴィンセント・ユーマンズ(ショスタコーヴィチ編): タヒチ・トロット***
ゲンナジー・ロジェストヴェンスキー指揮
フィルハーモニア管弦楽団*、BBC交響楽団** ***
1962年9月4日、エディンバラ、アシャー・ホール(実況、海外初演)*
1980年12月10日、ロンドン、ロイヤル・フェスティヴァル・ホール(実況)**
1981年8月14日、ロンドン、ロイヤル・アルバート・ホール(プロムズ実況)***
BBC Legends BBCL 4242-2 (2008)
うわあ、遂に出たか。つい先週、大学の講義の締め括りで流したばかりの「タヒチ・トロット」実況、それとおんなじ演奏(稀代の名演!)が再発売されてしまった! 嬉しいような、ちょっと口惜しいような不思議な気分になる。ともあれ慶賀である。
この演奏のなんたるかについては一年半前にちょっと書いたことがある(
→ここ)。
改めて聴き直してみて、この「タヒチ・トロット」はやはり類い稀な演奏だと感じ入った。ロジェストヴェンスキーの魔法の棒に、あのだだっ広いロイヤル・アルバート・ホールの聴衆数千人の心がひとつになって、ショスタコーヴィチとともに唄い踊る、そんな奇蹟的なひとときが記録されている。
当日のプログラムの全容は詳らかでないが、後半は立て続けに小品が演奏されたらしい。ヨハン・シュトラウスの「ロシア絡み」のポルカ→ショスタコーヴィチが編曲したシュトラウス(指揮者ボリス・ハイキンの依頼による由)→「タヒチ・トロット」という流れはまことに秀逸。よく思いついたものだ。
併録の交響曲二曲について一言。「第十二」は国外初演という資料的価値は高いものの、オーケストラの習熟度に問題があり、どうにかこうにか演りおおせたという趣。そこに面白さもあるのも事実。「第六」は充実した演奏だが、ロジェストヴェンスキーにしてはまとも過ぎ、突出したところがない。とまあ、これは無いものねだりだが。