近所の映画館で珍しく邦画の封切を観る。マキノの『次郎長三国志』である。
マキノ雅彦監督作品
次郎長三国志
2008
脚本/大森寿美男
撮影/加藤雄大
出演/
中井貴一、鈴木京香、岸部一徳、北村一輝、温水洋一、笹野高史、近藤芳正、山中聡、高岡早紀、長門裕之 ほか
マキノ姓を名乗って『次郎長三国志』を撮る以上、それ相応の覚悟と志があったに決まっている。ましてマキノ雅彦はマキノ雅弘の甥なのである。
いまどき次郎長映画を作ろうとする、その心意気やよし。だが結果は無残なものに終わった。脚本の拙劣、殺陣の非力、時代劇役者の払底など、撮影所システムの消滅に由来する原因は山ほど数えられようが、最終的には「三代目」マキノ自身の演出力に責任があるのだといわねばならない。
次郎長と恋女房・お蝶との愛情に焦点を合わせた新機軸が悪いわけぢゃない。そうではなくて、ふたりの心の通い合いがちゃんと絵になっていないのが問題なのである。マキノ姓を名乗る以上、それは避けては通れまい。ああ、マキノ叔父だったら、どんなにか情感を籠めて丁寧に演出するだろうに…という歯痒さを禁じ得なかった。
キャスティングについては、まあ、こんなものなのか、と思う。中井貴一の次郎長はそれなりにサマになっていた(オリジナルの小堀明男がミスキャストだったのだ)し、大政の岸部一徳も貫禄があった。笹野高史の法印大五郎も巧みにオリジナルを踏襲していて秀逸。ただ、全員が勢揃いしたとき、この次郎長一家にはカラッとした明朗感や華やぎが足りず、観ていてなんだか心弾まない。
マキノ雅弘(晩年は雅裕)監督がまだご存命だったにも拘らず別の監督が『浪人街』をリメイクしてしまったとき、「なんと失礼な」と憤ったことがあったが、今やどこの誰が『次郎長三国志』をリメイクしても文句はいえない。それだけに、満を持して製作したはずの本作の不首尾には落胆を隠すことができない。