不世出の、という言葉を滅多やたらと使うべきではないのだが、それでもこの人ならいいだろう、不世出のヴァイオリニスト、ダヴィッド・オイストラフ。
今年はその生誕百年目にあたっている。不覚にも誕生日の9月30日は逃してしまったのだが、今からでも遅くはあるまいと、その偉業をほんの少しだけ偲ぶべく、昨日たまたま手にしたCDをかけてみる。
ブラームス:
ヴァイオリンとチェロのための協奏曲*
ベートーヴェン:
ロマンス 第二番 ヘ長調
ヴァイオリン/ダヴィッド・オイストラフ
チェロ/ミロシュ・サードロ*
カレル・アンチェル指揮 プラハ交響楽団、チェコ・フィルハーモニー管弦楽団
1950、1954年
日本コロムビア Supraphon CO-4490 (1990)
オイストラフの「プラハの春」音楽祭参加の置き土産と察しられる古い録音。オイストラフ最初の「ドッペルコンツェルト」ではなかろうか。このときまだ四十一、二歳の若さだが、もう遙か後年の老熟した演奏(もちろんジョージ・セル、ロストロポーヴィチとの共演のことだ)とさほど違わない解釈を披歴する。サードロのチェロも滋味豊かで立派。アンチェルの指揮が素晴らしくよい(とりわけ最終楽章の歯切れ良いリズム)。SPノイズの彼方からブラームスの肉声が聴こえてくる思いがした。
今ようやく思い至ったのだが、オイストラフとアンチェルとは同い年(カラヤンもだが)。もちろん当事者たちは気づいていたろう。戦争によって引き裂かれ、深く傷を負いつつも、こうして音楽で結ばれることの幸せを噛みしめたのではなかろうか──1950年のプラハでの出会いを勝手にそう想像しながら聴いた。