終日せっせと原稿校閲にいそしむ。原文の英語と照合しながらの作業なので、なかなか捗らない。実はもう一本、自分自身の原稿もあと一週間で書かねばならない。
気がついたら今日で八月も終わりだ。時間とのたたかいだが、自分の非力さとのたたかいでもある。
一呼吸つきたくて、九時からTVの音楽番組を観た。普段は「N響アワー」の時間帯だが、今日は「オーケストラの森」と題して、他の日本の管弦楽団を紹介する。名古屋フィルが新たに常任として迎えたスイス人指揮者ティエリー・フィッシャーの「就任披露演奏会」を七月に催した。その一部が放映された。曲目は
ハインツ・ホリガー: Tonscherben (日本初演)
エクトール・ベルリオーズ: 幻想交響曲 (第三楽章は割愛)
ティエリー・フィッシャーはCDで聴く限り、当代屈指の実力派指揮者とおぼしい。
とりわけ20世紀前半のフランス音楽に素晴らしい適性をもち、比類のないリズム感と音色配合の妙をみせる。手元にあるフローラン・シュミット、ジャン・フランセ、オリヴィエ・メシアンが悉く秀演揃いであり、さらにはフランク・マルタンやプロコフィエフにも見事な解釈を披瀝する。
CDで聴く芸風から、クールでポーカーフェイスの指揮ぶりを予測したら、けっこう熱演タイプなのでちょっと吃驚。ただし、聴こえてくる音楽は緻密に熟考されたもので、これは想像したとおりだった。
ホリガーの楽曲はいうなれば新世紀の「青少年(中高年?)のための管弦楽入門」。現代曲ならではの特殊奏法のオンパレード、意表を突く演奏技法や音色配合のショーケースといった趣。フィッシャーの指揮の手堅さ、指示出しの的確さに舌を巻く。
ベルリオーズは一楽章・四楽章の繰り返しを省かない正統的な行き方。一切の誇張を排して、楽器間のバランスをよく考慮した誠実で好もしい音楽を響かせた。テンポは終始早め。三楽章が省かれた放映だったのが残念だが、名フィルは指揮者の意を受けて、なかなか健闘していたと思う。
そのあと、引き続き十時からの「ETV特集」で「ロシア ロマノフ王朝の悲劇: 90年目の遺骨発見」というドキュメンタリーを観る。近年の発掘で最後の皇帝ニコライ二世とその家族の遺骨がすべて発見され、最新鋭のDNA鑑定で真正のものと判定された、という内容。
皇帝一家銃殺に到るいきさつを詳しく知ることができたのは収穫だったが、現今のロシアにおける諸手を挙げての帝政賛美(ニコライ皇帝は列聖されたそうな)の風潮はどうかと思う。鼻白むばかりだ。
そんなかんなで慌しく一日が終わろうとしている。明日から九月。