夕方、自転車に乗って、近隣の美浜文化ホールへ。
今日はここで催しがある。数日前、家人からチラシを手渡されて初めて知った。
ポピュラーミュージック大学 美浜校 第9回講義
J-POPの源流を探る
「荒井由実~松任谷由実/ユーミンの軌跡」
講師: 小倉エージ
この「ポピュラーミュージック大学 美浜校」とは月一回ここで催されている連続講演だとか。懐かしい小倉エージさんとユーミンの名に惹かれて参加してみた。
小倉エージさんの姿はその昔、下北沢のとある小さなスナックで二、三度お見かけしたことがある。
深夜近くその店に現れた氏は、決まって細野晴臣のアルバム『Hosono House』をリクエストし、B面になると周囲の皆に静聴を促し、「恋は桃色」のところですっくと立ち上がって、いかにも感に堪えぬという面持ちで上体を左右に揺らした。
当時すでに評論家として『ニューミュージックマガジン』誌上でよく名をおみかけしたが、ずいぶん稚気のある方なのだなあ、と吃驚した憶えがある。1974、5年のことである。
午後六時開講。ずいぶんお年を召された小倉さんは、持ち前の早口でユーミンの楽曲をいくつかに分類した。
1) 少女のうつろい
「ひこうき雲」「空と海の輝きに向けて」「やさしさに包まれたなら」
2) 恋心/純愛
「きっと言える」「たぶんあなたは迎えに来ない」「グッドラック・アンド・グッドバイ」
3) グルーミー・ワールド
「ベルベット・イースター」「雨の街を」「ダイアモンドの街角」
4) 風景/心象/固有名詞(場所・地名)
「海を見ていた午後」「中央フリーウェイ」「緑の街に舞い降りて」
5) オールディーズ(50's 60's)
「ルージュの伝言」「CHINESE SOUP」「CORVET 1951」
6) 青春の追憶・回想
「卒業写真」「あの日にかえりたい」
7) 課外授業(キャンティ~米軍キャンプ~美校)
「気ままな朝帰り」「キャサリン」「悲しいほどお天気」
8) 追憶/郷愁/哀愁/感傷
「旅立つ秋」「たとえあなたが去っていっても」
…
以下省略するが、全部で二十の範疇に分け、主として詞の側面からその変遷と多様性を説明した。あまりにもカテゴリーが多すぎて、話が込み入ってしまう嫌いはあるのだが、恋に憧れる夢見がちな天才少女が、時代を牽引するプロフェッショナルなソングライターへと変身していくさまが、まざまざと実感される二時間半だった。
それにしても、と今にして思う。
渋谷の小さなライヴスポットで声を震わせ絶唱していた少女と、絢爛たる「シャングリラ」の大舞台に女王の如く君臨する女性とが、同じひとりの人物だとは俄かに信じがたい。思えばユーミンも、遙か彼方まで旅してきたものだ。