今日は前からお約束していたとおり、畏友にして相談相手である宮本立江さんを富士見台のカレー料理屋「香菜軒」へお連れして、昼食をご一緒した。宮本さんは小生が "Three Oranges" に寄稿する英文論考を執筆する際、プロコフィエフの日記からの引用箇所のすべてをロシア語原文から訳して下さった。
今ならば Anthony Phillips 氏の英訳から当該箇所を引いてくるところなのだが、昨年末の時点では未刊行だったから、宮本さんがまず露語→和訳し、それを小生が日本語→英訳するという面倒な手順を踏まねばならなかった。最終的にはロンドンのノエル・マン先生がさらに手直しして下さった。けっこう手間暇がかかっている。
今日はその御礼と、ロンドン行きの報告を兼ねての会食。
掲載誌そのものは先々週の土曜に「来日ロシア人研究会」でお目にかかった際、すでに進呈済なのだが、その後さらに誤謬が判明したため、改めて手作りした最新の「正誤表」をお渡しした。
宮本さんは長くナウカで雑誌『窓』を編集されていた方なので、小生が自分の関わった論考で生じた誤りを気にかけたり、図版の無断掲載(そういうことが起きたのだ)に心を痛めたりしていることに対しても、親身の理解を示された。
「学者のなかにはそういうことに無頓着な人がいるんです。かつて私が仲介してロシア人研究者にお貸しした図版が、所蔵者に無断のまま勝手に転用され、世に広まるということがあって、それからは金輪際そうした仲介役はやらないと心に決めた」と宮本さん。
他人の業績を都合よく要約・抜粋して一冊の本に仕立てるという、とんでもないエセ学者だって世の中にはいる。しかも愚かなことに、その要約・抜粋が間違っているのだから始末に負えない。要するに、軽率なばかりか頭も悪いのだ。「その人とは同じ部屋の空気を呼吸したくないし、彼女が寄稿する雑誌の同じ号には絶対に執筆しない」と小生。
実にもう食事がまずくなるような話題が続出したのだが、もちろん香菜軒の料理はいつものように美味。レバーペーストもラタトゥイユも、二皿のカレーも絶品だった。
夕方が近くなったので、池袋まで出て、そこで宮本さんとお別れした。
そのまま帰路につこうとして、今日も胸騒ぎ。吉祥寺方面で小生を呼ぶ声がする。ちょっとだけ覗いてみることにした。
"Matrix 27: Dutilleux, Schmitt, Dukas"
デュティユー: ピアノ・ソナタ
フローラン・シュミット: 二つの幻影
デュカス: ピアノ・ソナタ*
ピアノ/ジョン・オグドン
1972年7月、6月*、ロンドン、アビー・ロード・スタジオ
EMI 5 65996 2 (1996)
かねて評判は聞いていたが、このオグドンの演奏はちょっと神懸りといいたいほど凄い。楽曲へのコミットメントが尋常でなく、シュミットにせよデュカスにせよ、「これまで聴いてきた演奏はなんだったのだろう」と思わせるほど、断然他と隔絶した超名演なのである。「近代音楽の落穂拾い」的廉価シリーズ "Matrix" 全三十枚がこれで揃ったと思う。五年くらいかかったかな。
シェーンベルク: 月に浮かれたピエロ*
シェーンベルク (ヴェーベルン編): 室内交響曲 第一番
シュプレヒシュティンメ/マリアンヌ・プスール*
フィリップ・ヘレヴェッヘ指揮 アンサンブル・ミュジック・オブリック
1991年7月録音
harmonia mundi France HMC 901390 (1992)
これまた聞きしに優る素晴らしい演奏。今の今までこれを聴かずにきた愚を思い知る。ヘレヴェッヘのヴァーサタイルな才能には舌を巻くほかない。彼が取り上げることで、シェーンベルクやクルト・ワイルは、長い西欧音楽の系譜のなかでこそ育まれた異端児なのだと悟らされる。
ベルリオーズ: 幻想交響曲
アンドルー・デイヴィス指揮 BBC交響楽団
1993年5月28日、東京、人見記念講堂 (実況)
BBC music BBC MM 113 (1993)
例に拠ってただ「安いから」という理由で求めた雑誌附録CD。ちょっとお上品ではあるが、神経の行き届いた演奏だ。会場表記を見て吃驚。日本楽旅のライヴなのだ。おそらくはNHKの収録か?
プロコフィエフ:
協奏交響曲*
交響曲 第五番
チェロ/ナターリヤ・グートマン*
ワレリー・ゲルギエフ指揮 ロッテルダム・フィルハーモニー管弦楽団
2001年1月15日、ロッテルダム (実況)
"0""0""0" Classics TH 082
出所怪しい海賊盤。ところがこれが白熱の名演。そもそもグートマン&ゲルギエフの共演が珍しいし、彼女の弾くプロコフィエフも初めてではないか。構えの大きい巨匠的演奏に感服。交響曲も生気漲る演奏だが、木管群に艶が乏しく、かなり弱体。この曲では小さくないダメージだ。
ほかに、ヘレヴェッヘ指揮のマヌエル・カルドーソ(ミサ曲、マグニフィカト)も手にしたが、これはまた後日。
(追記)
そのあと結局この盤も聴いた。17世紀前半のポルトガルの典礼合唱曲。その清冽にして至純の美しさに打ちのめされ、感動のあまり言葉もない。
マヌエル・カルドーソ Manuel Cardoso:
ミサ曲 「ミセレレ・ミヒ・ドミネ」
マグニフィカト
フィリップ・ヘレヴェッヘ指揮 アンサンブル・ヴォカル・ウーロペアン
1994年10〜11月録音
harmonia mundi HMC 9015 (1997)