七時起床。ちょっと寝過ごしたのは昨日のオペラ鑑賞の疲れと、それに続く別送品荷造りの夜なべ仕事の故か。外は曇天。
いよいよ倫敦滞在も残り少なくなってきた。昨晩あらかた詰め終わっていた別送便の段ボール箱をレセプションに手渡す。八時から夕方五時までの間に業者が取りにくるので、必ず渡してくれるよう念を押す。「わかった」という返事。どうも信用ならない。隣のカフェでイングリッシュ・ブレックファスト。食べながら『タイム・アウト』に目を通す。昨日出た最新号だ。
九時出発。今日の昼はバービカン近くの LSO St. Luke's というところでランチタイム・コンサートを聴くことにする。とりあえずDLRで終点のバンクまで出る。コンサートまでかなり間があるので、そこから更に地下鉄でキングズ・クロス/セント・パンクラス駅へ。思い立ってこの近くの大英図書館 British Library にちょっと立ち寄ることにする。といっても図書館の本体ではない。ここで催されている展覧会「ラーマーヤナ」をさっと見学し、ショップを覗いてみたい。八年前、ここのショップでいろいろ珍しい本を見つけた記憶があるからだ。
思いもよらず「ラーマーヤナ」展は面白かった。縁遠く感じているインドの伝承文学だが、出品された写本類の美しく、親しみ易いことといったら! 登場人物(?)のひとり、猿のハヌマンのノンビリ、のほほん、愛嬌たっぷりの姿に、ほとんど恋してしまいそうになる(
→これですよ)。思わず絵葉書を購入。
そのあと訪れたショップも、前回同様、他では見かけない面白そうな書籍・展覧会カタログがいろいろあって、購入欲を押しとどめるのに四苦八苦。どうにかこうにか、以下の三冊に絞り込んだ。
"Chasing Happiness:
Maurice Maeterlinck, The Blue Bird and England"
Cambridge: Fitzwilliam Museum, 2006
"Breaking the Rules:
The Printed Face of the European Avant Garde 1900-1937"
The British Library, 2007
Paul Edwards (ed):
"Blast: Vorticism 1914-1918"
Aldershot: Ashgate, 2000
これら三冊がいかに魅力的な書物かについてはいずれ詳述することにしよう。
そのほか、中世の写本装飾、マグナ・カルタ原本、レオナルドの手稿、ルイス・キャロル自筆の「アリス」挿絵など、大英図書館秘蔵の「お宝」を豆本にしたシリーズ "Treasures in Focus" 全六冊が魅力的でどれも捨てがたく、これは知人たちへの土産に最適だと思った。
ほかに、倫敦の運河をカラー写真入りで紹介したガイド本も。
レジで支払いを済ませるとき、「ここのショップは倫敦一魅力的な本屋さんだと私は思う」と(お世辞ではなく)伝えると、若い店員氏は満更でもないといった表情を浮かべながら「ありがとう」と返した。
再びキングズ・クロス/セント・パンクラス駅へ取って返し、地下鉄ノーザン・ラインで二駅先のオールド・ストリートへ。初めて降りる駅だが、近隣地図が無料で貰えたので、目指す「LSO セント・ルークス」も、大通りを五分ほど歩いたところに難なく見つかった。ここも外観はなんの変哲もない、ありふれた教会堂にしか見えない。
正面の扉を開けると、親切そうな係員が「コンサートか」と尋ねるので「そうだ」と応じると、「まだ早いので地下のクリプトでしばし待たれよ」と勧めてくれた。
入口に積んであったこの聖堂の由来を記したパンフに拠ると、ここは拡張を遂げた倫敦の新開地の教会として18世紀に創建され、二百年以上の歴史を誇ってきたが、20世紀に入ると地下水の汲み上げで地盤が脆弱化し、建物に倒壊の危機が迫ったため廃寺となった。それをロンドン交響楽団(LSO)が買い上げ、大がかりな補強工事を施したうえで楽団の練習場としたのだという。名称にLSOが冠さるのはそれ故だ。
聖堂の歴史に思いを馳せながら、クリプトで紅茶とマフィンをいただく。改装工事はごく近年のものらしく、このカフェもたいそう居心地が良い。ほどなく開場。何時の間にか数十人が集っている。
12:30- LSO St. Luke's
"LSO Discovery Fridays: Lunchtime Concert"
チェロ/Reinoud Ford
ピアノ/Lara Dodds-Eden
ブラームス: チェロ・ソナタ 第二番
ドヴォルザーク: ロンド ト短調
教会堂の大きな空間はそのままだが、ほうぼうに補強の柱が立ち、壁体にも鉄骨の支えが見える。内陣はすっかり取り払われ、もとは会衆用のベンチがあったあたりは階段状の座席となり、全体はすっかりコンサートホールの趣。普段はロンドン交響楽団の練習場であるが、リハーサルは無料公開され、そのほか若手奏者にも活動の場として提供されているらしい。
今日はギルドホール音楽学校卒業生の室内楽。まず若い女性が登場して、えらく達者なしゃべりで楽曲と演奏者を紹介。楽章間でも解説を差し挟むのには驚いたが、初心者にもわかるように、作曲家のエピソードを交えて面白く話す。ただし、大変な早口。
今日の奏者たちの水準は高く、チェリストはしっとり美音を奏でていた。いずれLSOに入団するのか知らん。ドヴォルザークの曲はたぶん初めて。アメリカ行きを控えての告別演奏旅行用に作曲された由。
一時間足らずで終了。このあとは夕方までOFFなので、大まかに方角だけ定めて、適当に街路を歩いてみる。裏道が歩行者天国になっていて市が立っていた。昼飯時なので、けっこうな賑わい。そこを通り抜けるとバービカン・センターの入口に出た。今日ここに用はないので素通りし、前から気になっていた近傍の「倫敦博物館 Museum of London」を訪れてみた。
倫敦の歴史を先史時代から時代を追って紹介する歴史博物館。17世紀の大火や、その後の大拡張の経緯など、なかなか興味深い内容。ただし展示手法が少々陳腐なのが残念だし、ショップも期待外れ。四十分ほどで失礼し、カフェで温スープとパン、珈琲で遅い昼食。
バービカン駅に戻り、ここから地下鉄伝いにラッセル・スクエアへ。
(まだ書き出し)