連休も最後になってようやく爽やかな皐月晴れ。欧州の初夏を思わせる清々しさ。
しばらく留守をするので、江古田に出向いて所用を済ませておく。そのついでに富士見台まで足を延ばして、馴染のカレー店「香菜軒」に立ち寄る。開店少し前に到着し、店主の三浦氏と互いの近況を話していたら、正午の開店と同時にお客さんが次々に来店、小さな店はたちまち大入満員となる。長居は失礼なので、ワインを二杯呑んでカレーのセットメニューを注文。そそくさと退散した。
帰り途の池袋でHMVにちょっと寄り、BBCの音楽雑誌 "BBC Music" の最新号を手にする。レコード評よりも先に演奏会案内に目がいくのは倫敦行きが目前だから。これまで気づかなかった市内の教会でのコンサートに心惹かれる。どれを聴こうか、早くも迷ってしまう。
新譜の棚にこんな心惹かれる一枚があった。
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Tormis: Choral Music"
ヴェリヨ・トルミス:
エルネスト・エンノによる二つの歌
三つのエストニアの遊び唄
叙事詩「カレフの息子」からの三つの歌
リヴォニアの遺産 (五曲)
船上に歌う
秋の風景 (七曲)
四つのエストニアの子守唄
子供時代の思い出 (家畜集めの呼び声)
スティーヴン・レイトン指揮 ホルスト・シンガーズ
2007年7月、ロンドン、ゴスペル・オーク、オール・ハローズ・チャーチ
Hyperion CDA 7601 (2008)
これはひどく興味を掻きたてられるアルバムだ。普段よく聴いているエストニア・フィルハーモニー室内合唱団の演奏とはずいぶん趣を異にする演奏だ。一言でいうなら母語で歌う強い共感から来る野趣や肉声の生の迫力はここにはなく、そのかわりに驚くほど行き届いた繊細な心遣いが溢れる。どこかヴォーン・ウィリアムズやディーリアスやグレインジャーと地続きの音楽のように聴こえる瞬間もある。もっとも、この英国の団体はシュニトケやペルトも得意としているらしいのだが。
トルミスの初期から最近作まで、彼の合唱音楽を通観できるような選曲も魅力のひとつ。どれも素晴らしく魅力的な曲ばかりなので、いちいち枚挙している暇がない。とにかく試しに聴いてご覧なさい!
ライナーノーツに拠れば、トルミスが1950年代初めにモスクワで学んだ頃、西側の音楽は事実上禁止されていて、十二音技法はもとよりドビュッシーやストラヴィンスキーですら御法度だったという。たまたま1962年にハンガリーとの国境地帯を旅した際、彼はバルトークとコダーイの楽譜をいろいろ手に入れ、民謡を自作に生かす手法をつぶさに研究したのだという。それでわかった! トルミスの合唱曲がハンガリーのこのふたりの後継作品として聴こえる理由が。