1924年2月9日、パリのオペラ=コミック座で初演されたバレエ『小さな眠りの精 Le Petit Elfe Ferme-l'Oeil』がどんな舞台だったのかは、手許に資料がないので容易に想像できない。作曲者のフローラン・シュミットについてはこれまでに小さな研究書が二、三あるだけだし、舞台装置と衣裳を手掛けたアンドレ・エレに関しては、本国フランスでも画集一冊刊行されていないありさまだ。先人への忘恩にかけて、フランスという国は日本と双璧なのである!
各種ライナーノーツからの情報を総合すると、シュミットはピアノ連弾版「小さな眠りの精の一週間」(1913刊)をほぼそのまま踏襲してオーケストレーションを施し、新たに「前奏曲」を書き足して新作バレエを拵えたらしい。
前奏曲
第一場/二十日鼠の婚礼 La noce des souris
第二場/草臥れたコウノトリ La cigogne lasse
第三場/眠りの精の馬 Le cheval de Ferme-l'oeil
第四場/お人形ベルタの結婚 Le mariage de la poupée Berthe
第五場/石板の文字のロンド La ronde des lettres boiteuses
第六場/絵のなかへの散歩 La promenade a travers le tableau
第七場/中国の雨傘 Le parapluie chinois
つまりこういう構成だったとおぼしい。
ところで、この八十四年前のバレエの舞台がどんなに素晴らしかったか、それを遙かに偲ぶためのささやかな縁(よすが)が小生の手許にある。
Le Petit Elfe Ferme-l'Oeil
Compositions de
André Hellé
sur le ballet de Florent Schmitt
tiré d'un conte d'Andersen
représenté au Théatre de l'Opéra-Comique
A. Tolmer, Paris
この宝石箱のような絵本を言葉だけで紹介するのは不可能だ。どう語彙を連ねたところで、その類い稀な魅力を取り逃がしてしまうからだ。
そこにあるのは縦二十センチ、横十七センチほどの黄色い小箱である。
蓋には玩具の兵隊やお姫様やらの人形が折り重なるように描かれているのだが、いささかごたついていて、正直言ってこれは感心しない。それにさすがに八十年の時を経て、あちこちに汚れや染みも目立つ。
その蓋を開けると魔法が起こる。
なかに収められているのは二冊の小さな絵本。一冊はフローラン・シュミットのバレエから八つ(前奏曲と七つの「夢」)の部分を抜粋した楽譜集。どの頁にもアンドレ・エレのヴィニェット(小挿絵)がモノクロームで入っていて、これはこれで愉しいのだが、どうしても関心はもう一冊の色鮮やかな絵本のほうへ行ってしまう。
これはなんという手の込んだ仕掛けだろう。
どう説明したらよいのか、言葉に窮するのだが、三面鏡のように左右が折り畳まれた絵本と言ったら少しはお分かりいただけようか。折り重なった頁を左へめくり、右へめくりして、扉を開くようにして奥へ奥へと読み進めていく。頁のあちこちには四角く窓が穿たれていて、次の場面の一部が覗いていたりする。いや、こんな下手な説明では駄目だ、こればかりは現物を手に取らないことにはどうにも始まらない。
(まだ書きかけ)