たった今 David Nice "Prokofiev: From Russia to the West 1891-1935" を読了。とうとう336頁まで辿りついた。素晴らしい体験だった。
主に東京への往還の車中で読み進めたのだが、それでは埒があかないので、後半からは自宅でも暇さえあれば読んだ。註も含め熟読したので思いのほか時間がかかってしまったが、ともあれこれでプロコフィエフの前半生(ソ連に帰還するまで)の生涯と作品を時系列でつぶさに辿ることができた。俄勉強ではあるにせよ、しないよりはしたほうがいい。
前にも書いたかもしれないが、本書は間違いなく、これまでに書かれたなかで最良のプロコフィエフ評伝である。瑣末な私生活の出来事から、背景をなす社会の大変動まで、細大漏らさず書き込まれていて、いわばそのキャメラの「寄り」と「引き」のバランスの按配が見事というほかない。
個々の楽曲分析も的確かつ詳細をきわめ、門外漢の小生にはそのすべてが理解できるはずもないが、少なくともよく聴き知った曲に関する限り、ナイスのアナリーゼは実に的を射ていると思った。
残念なことに、2003年に出た本書は同年刊行の『プロコフィエフ日記』(露語版)を殆ど参照できず、専ら『自伝』と手紙類により生涯の細部を再構成する手法に拠っている。それだけが心残りであるが、日記なしでここまで詳細に書けたこと自体、大いに偉とするに足る。よくぞ調べ尽くしたものだと感嘆する。これは倫敦のプロコフィエフ・アーカイヴの資料が最大限に活用された最初の評伝でもある。
本書は1935年12月、プロコフィエフがバルセロナで新作のヴァイオリン協奏曲の初演を聴いて帰国するところで終わっている。今夜は寝る前にこれを聴こう。
プロコフィエフ:
ヴァイオリン協奏曲 第二番
ヴァイオリン/ミラ・ワン
ティエリー・フィッシャー指揮 ザールブリュッケン放送交響楽団
2002年8月、ザールブリュッケン
Berlin Classics 0017632BC (2003)