月刊誌『新潮』に連載中の山根貞男の「マキノ雅弘」は驚くべき発見に満ち満ちている。最新号の第七回は「リメイク考」と題され、マキノが生涯にわたって続けた夥しい数の自作リメイクの意味を徹底的に考えぬいた論考である。
実はそれに先立つ第六回「ラブシーン作法」(二月号掲載)にも重大な指摘があり、マキノ映画の到るところに「同一カットの反復」が頻出するとしたうえで、
マキノ作品における反復は多岐にわたるが、大量の映画を撮っていれば、くりかえしは避けられない、といった話ではない。反復は確固たる手法なのである。
と敷衍したあとで、山根さんは『日本侠客伝 血斗神田祭り』(1966)のクライマックス、鶴田浩二と野際陽子の惜別のシーンで、『婦系図』(1942)の別れの場面と殆ど同じ台詞が出てくる、という事実を指摘する。そのうえで、マキノは登場人物の心の「綾」、すなわち彼が望む映画の流れを実現すべく、旧作の台詞を再利用したのに違いないと推測する。
やはりマキノ雅弘は反復の人なのである。その事実はもっと大掛かりには、旧作の多くをリメイクすること、リメイクをくりかえすことに現われている。
とさりげなく指摘する。山根さんはここではそれ以上踏み込んで詳しく論じてはいないが、これは実に驚くべき卓見ではなかろうか。
今日もちょっと時間がとれたので、フィルムセンターに赴いた。
天保六花撰 地獄の花道
1960 東映
市川右太衛門+東千代之介+淡島千景+月形龍之介+杉村春子+中村賀津雄
九ちゃん刀を抜いて
1963 東映
坂本九+東千代之介+常田富士男+進藤英太郎+南田洋子+九重佑三子+西村晃
ともに東映時代劇の黄金時代末期のカラー・ワイド作品。
前者は『すっ飛び駕』(1952)のリメイク。子母沢寛の「すっとび駕」を原作に仰ぐ河内山宗俊ものの一作である。旧作の『すっ飛び駕』は凄い大傑作と記憶するが、細部は忘れてしまったので、山根さんのように比較して語れないのが残念。右太衛門のもったり不明瞭な口跡に災いされた憾みが残るが、終盤で河内山が手下の直次郎(中村賀津雄)と向き合う場面の盛り上がりはまさしく圧巻。
後者はいかにもマキノ的な時代劇ミュージカル。中村八大+永六輔を起用したわりに垢抜けない音楽にやや不満が残るが、随所に演出の冴えが光る。吉原の花魁に扮した南田洋子の婀娜な美しさに吃驚。
山根さんの「リメイク考」については、また日を改めて続きを書こう。