野暮用がようやく終わり草臥れ果てて表に出ると、外はもう真っ暗だ。
冷気に触れるとしゃきっとして、まだ余力が残っているような気がしてきた。地下鉄を乗り継いで、今夜はとりあえず銀座に出る。
手早く腹ごしらえしようと、「ニューキャッスル」で大盛りカレーをさっと平らげ、HMVで最新刊の "Gramophone" 誌を手にする。来年が生誕百年になるというヘルベルト・フォン・カラヤン(ということはマキノ雅弘と同い年か!)の特集が読み応えたっぷり。加えて、ショスタコーヴィチの第十五番交響曲の徹底聴き較べの記事まである。附録CDではカラヤンへのインタヴュー(1967)や、フェラス+シュヴァルベを独奏者にしたバッハの二重協奏曲の抜粋も聴ける。
「テアトル銀座」のロビーでこの雑誌を拾い読みしていたら、前の回が終わってどっと人が吐き出される。マノエル・デ・オリヴェイラ監督の新作はえらく評判が良く、夜の回もずいぶん賑わっている。
90年代後半めっきり映画館から遠のいてしまった小生は、オリヴェイラ作品をまるで知らない。
それではならじ、とまずは六年前の旧作『わが幼少時代のポルト』(2001)を観ておこうと、今日のレイトショウに馳せ参じた次第。九十歳を過ぎた監督が自らの幼少期と青春期を回想する一時間のフィルムなのだが、ノスタルジックという語では括れないような、なんというか、炸裂的なイメージ(あるいはその気配)の連鎖を見せつけられた思いがして、流石にこれは尋常ではない監督だという予感がする。
オリヴェイラ監督については、いずれ本篇の『夜顔』を鑑賞したときに詳しく触れよう。表に出ると、大通りには夜十時だというのに人の往来がひっきりなし。さすが銀座だ。