昨夕ようやく英作文から解放され、やれ嬉しやと自転車に飛び乗り、暗がりを駅前の本屋まで走らせた。日本語に飢えていたのだろう、あれやこれや買い込んだ。
まずは先日、妹から教えてもらった『シアターガイド』という雑誌の最新号。
「ブロードウェイ・レジェンド──プロの神髄」という中島薫さんの連載で、この八月に初来日したマイケル・ファインスタイン(
→感想はここ)のインタヴューが載っている。生い立ちやらアイラ・ガーシュウィンとの出遭いやら、すでに自叙伝で語られた内容がほとんどだが、肉声で語られる味わいはまた一入。
意外だったのはガーシュウィンの楽曲を織り交ぜたミュージカル『クレイジー・フォー・ユー』を、ファインスタインは一度も観ていないそうだ。以前『マイ・ワン・アンド・オンリー』を観て、リスペクトに欠く編曲や、無神経な歌詞の改変に不愉快な思いをさせられたからだという。
このインタヴューは次号にも続くそうで楽しみだ。
ついでに、新刊の棚からは次の一冊。
村上春樹+和田誠 『村上ソングズ』 中央公論新社、2007
これはなんというか、夢のような詞華集である。村上が鍾愛のアメリカン・ソングズを選りぬき、自ら工夫をこらした訳詞をつけ、曲ごとに短いコメント(曲の由来や名盤紹介、好きな理由、その他の薀蓄)を記す。そしてさらに和田が色とりどりの心暖まる挿絵を添える。絶妙というほかない取り合わせだ。
選曲はずいぶん渋い。誰もがすぐ思いつくような有名曲ばかりではなしに、スタンダード・ナンバーとしては地味な楽曲、半ば忘れられたソングにも目配りして、「ほら、こんな素敵な詞曲があるんですよ」と差し出す。大詩人からマイナー・ポエットまで広く渉猟した、上田敏の『海潮音』の現代版といえようか。
知らない曲が半分ほどを占めるのは小生の無知もあるのだろう。でも、これを読むと、未知の曲も無性に聴いてみたくなり、既知の曲も改めて聴き直したくなる。心ときめく素晴らしいアンソロジーだ。
これだけは外せないだろうと思ったソングがやっぱり含まれていた。「中国行きのスロウ・ボート On a Slow Boat to China」のことである。
個人的には、大好きなヴァーノン・デュークの「ニューヨークの秋」や、カポーティが詞を書いた「眠る蜂 A Sleepin' Bee」が選ばれていることに悦びを禁じえなかった。
新刊コーナーではこの本のすぐ隣に、これに勝るとも劣らぬ珠玉のもう一冊が並んで置かれていた。その紹介は明日。