「谷津遊園」と聞いて、おお、と声をあげる御仁はおそらく中高年以上に限られよう。京成電鉄が千葉県習志野市に開設した遊園地で、かつては「船橋へルスセンター」とともに東京近郊の代表的な娯楽施設だったのだが、1982年にあえなく閉園した。跡地は再開発されて団地群が建ち並ぶが、わずかに園内の薔薇園のみが市営の「谷津バラ園」として今日まで存続している。
雲ひとつない秋日和に誘われて、自転車で三十分ほど走ってここを訪れた。何度目かの来訪だが、秋に来たのは小生も家人もこれが初めて。さすがに最盛期の五、六月には及ばないものの、結構たくさんの種類が咲いていて、これで入園料三百円は安いと思う。
開発した新品種に著名人の名をつける習慣があるらしく、ダイアナ妃のような王室・皇室の女性、ルノワール、エミール・ノルデといった往時の画家、ケーリー・グラント、ヘンリー・フォンダ、フィリップ・ノワレ(←渋すぎ)ら映画スターに因んだ薔薇がそこここで咲き競う。とりわけ、真紅の大輪をつけた「マリア・カラス」と、同じく大輪で黄色い花を咲かせた「ジーナ・ロロブリジダ」が隣り合って艶を競う一郭はまことに壮観。ネーミングの妙といおうか。
実をいえば「ジャクリーヌ・デュ・プレ」という白薔薇があるのを小生は知っていて、これと出遭えるのを密かに期待したのだが、どうやら夏咲きの種類のようで今日は見られずに残念(
→こんな花ですよ)。
そのあと、すぐ傍らの谷津干潟を横目に眺めながら自転車を走らせる。
かつては東京湾のぐるりがほとんど干潟だったというが、現在はここと江戸川河口沖の三番瀬、木更津の盤洲干潟くらいしか残っておらず、ここは小さいながら渡り鳥の飛来するバードウォッチングの聖地として知られる。今は季節が早すぎて鳥たちはほとんど見えないが、それでも何種類かのシギがちらほら。
折角なのでここの自然観察センターに立ち寄り、望遠鏡で観察したり、解説員のお話を聴いたりした。さっき姿を見せたのはどうやらハマシギ(浜鴫)とタカアシシギ(高足鴫)とダイゼン(大膳)だったらしい。
ちょっと疲れたのでセンター内の喫茶室で喉を潤す。各テーブルに双眼鏡が備えつけてあり、バードウォッチングしながら珈琲が飲めるという粋なはからいが嬉しい。
ここの売店で、来年のカレンダーを購める。月齢と潮の干満がわかる「月と波のカレンダー」。海浜に住む者にとって有用かつ必携の暦なのだ。
気がつくと四時を大きく回っている。西日が干潟を黄金色に染めはじめている。夕暮時、帰り道を急いで自転車を走らせたら、風がひんやりと冷たかった。もう秋も深い。