早朝から原稿書き、と目論んだものの、目が醒めたのは八時。慌てて飛び起き、熱い珈琲で覚醒。すぐに執筆に取りかかる。なにしろ昨日が締切だったのだ。
冗漫だった書き出しを短くし、すぐ本論に入る形に改めたら、あとは不思議なほどスラスラ捗る。十一時には脱稿。ああ肩の荷がおりたわい。
ほどなく踊りの稽古から戻ってきた家人と軽い昼食を済ませ、午後は共に外出。
今夕七時から品川の原美術館でコンサートがある。ここのカフェは眺めがいいから軽い夕食を…と考えたのだが、五時に閉店だという。融通の利かぬ話だなあ。
やむなくちょっと予定を早めて、四時に美術館へ到着。まずはカフェに直行し、珈琲とケーキのセットをいただく。芝生の綺麗な中庭をのんびり眺めていたら、雲間から青空が覗く。素晴らしいひととき。
そのあと常設展示をざっと拝見。今回は日本とアジアの作家ばかり。合点のいかぬ作品ばかりだが、わずかに森村泰昌の昨年の映像作品『烈火の季節/なにものかへのレクイエム』にちょっと惹かれる。なんと三島由紀夫、それも市ヶ谷の自衛隊のバルコニーで檄を飛ばす三島に扮しているのだ。これは一見に価する。
そうこうしていたらもう五時の閉館時刻。ここで有無を言わせず外へ出されてしまう。これは酷いぞ。今日が雨降りでなくてよかったなあ。
仕方なく御殿山界隈でも散策しようと歩き出したら、いきなりビルマ大使館に出くわし吃驚。高い塀と物々しい警備。そういえば先ほど微かにシュプレヒコールが聞こえていたなあと思い出す。
少し歩くと日本庭園とホテル、高層マンションが隣接する一郭に。西郷従道(隆盛の実弟)の洋館が建っていたのはこのあたりなのだろうか。そのあと周辺をそぞろ歩いたら、空がいい具合に暮れてきたので美術館へ戻る。
六時に再び開館。しばらく常設を観ていたら、ほどなく付属ホールが開場。ガラス越しに中庭を望む素敵な空間だ。今日のコンサートはアコーディオンとマリンバの共演という珍しい内容である。
music@hara
アコーディオン=御喜美江、マリンバ=池上英樹
原美術館 ザ・ホール 19:00~
モーツァルト (野田雅巳編): 五つのコントルダンス K.609 より 三曲
バッハ: 無伴奏ヴァイオリン・ソナタ 第一番 より フーガ (m)
グリーグ: 抒情小曲集 より ハリング、円舞曲、小鳥、郷愁、妖精の踊り (a)
ワイル (野田雅巳編): バルバラ・ソング
マスカーニ: 「カヴァレリーア・ルスティカーナ」間奏曲 (m)
ピアソラ: バチンの少年、S. V. P. (a)
マイルズ・デイヴィス: マイルストーンズ (m)
林光 (野田雅巳編): ぐるぐるまわりのうた、マリー・アブラハムのバラード
(アンコール)ピアソラ: リベルタンゴ
a=アコーディオン独奏/m=マリンバ独奏/あとは二重奏
どうです、なかなか面白そうでしょ。
御喜美江さんを生で聴けるのが最大の楽しみ。なにしろ初めてなのだ。
ご覧のとおり、玩具箱を引っ繰り返したような多彩な曲目なのだが、小生としてはグリーグが面白かった。素朴でダンサブルな音楽がアコーディオンとえらく相性が良いのだ(歿後百年の今年、CDも出たようだ)。
マリンバの池上氏も初めて聴く若い人だが、なかなかの腕利きと察した。今日の二重奏の演目はすべて編曲ものなので、アレンジの巧拙が絡んでいて評するのが難しいが、期待していたクルト・ワイルは案外面白くなく、むしろ林光の二曲が断然よかった。ピアソラは大の苦手なのでコメントは控えよう。「リベルタンゴ」など、ふたりとも凄まじい力演だったが。
最前列で至近距離から見聞きする御喜さんの演奏は迫力満点。なんというか、エモーショナルな演奏をする人なのですね。そういう彼女だからこそ、逆説的に、バッハがいいのかもしれないと思ったりした。今日の曲目に彼女が弾くバッハがないのがほんとうに残念。
ともあれ座席七十余という小さな空間で堪能できたのは幸いだった。美術館入場料コミで3,500円もリーズナブル。
夜の闇にひたされた御殿山はひっそり閑と静まりかえり、秋の虫がほうぼうで鳴き競っていた。