青木繁の『海の幸』について小文を書かねばならないのだが、いつもながら書き出しで躓き、考えあぐねてしまう。せっかく現物をつぶさに観てきたのに、なんという体たらくであろう。
先日、図書館でコピーしてきた先学の論考をあれこれ読みつつ思案するも、どうにも考えが纏まらない。当方の頭がよほど悪いせいだろうが、先人たちの論もいささか空転し、核心を突くに至っていないようだ。う~ん、このままでは袋小路で立往生しかねない。妙案はないものか。
夕刻、知人と会う用事があるので、京橋まで出る。待ち合わせ場所のINAXブックギャラリーに早く着いたので、建築・デザイン書をあれこれ物色。小さなスペースながら、ここの品揃えと配架は絶妙で、飽かず眺む。
さんざん迷った挙句、平野甲賀のエッセイ集『僕の描き文字』(みすず書房、2007)を購入。ざっと立ち読みした感じでは、彼はなかなかの文章家でもあるらしい。随所に挿入された「描き文字」ももちろん素晴らしいのだが。
帰宅は九時過ぎ。日中はどんより曇っていた空がいつの間には晴れ上がり、正真正銘の満月が煌々と照り映えている。あまりにも見事な眺めなので、家人を誘ってまたもや夜の散歩。
見上げた月を掠めるように、羽田へ向かう最終便の飛行機が次々によぎっていく。たいそうドラマティックな光景だ。
郵便受けを覗くと、豊田市美術館から小包が届いている。八月にたまたま観る機会を得た展覧会「宇宙御絵図(うちゅうみえず)」のカタログだ。あのとき小生が「なんだかわからないが、ただもう、わけもなく面白く刺激的」と口走った拙い感想を、担当学芸員の青木正弘さんが覚えていて下さり、ご恵贈と相成ったのだろう。嬉しいなあ。この展覧会は先日(24日)終了しているが、現代美術の展覧会の常で、ようやくカタログ刊行に漕ぎつけたのであろう。
「これが僕の現役最後の展覧会なので…」と、ちょっと悔しそうに語っていた青木さん。早速これから、彼の書いたエッセイを読んでみよう。このところ月ばかり見上げていたのも、このカタログが届く前触れだったのか、とようやく気づく。夜空見上げて──「宇宙見えず」。