午前零時からの「週刊ブックレビュー」にドナルド・キーンがゲスト出演したのを見届けて、さあそろそろ寝ようかと思ったら、次の音楽番組「クラシック・ロイヤル・シート」にマルタ・アルヘリッチが出るというので、結局つきあって最後まで観てしまった。
昨2006年はローベルト・シューマンの歿後百五十年。言われてみれば確かにそうなのだが、迂闊にもまるで念頭になかった。このたび放映されるのは昨年6月1日と2日、シューマンゆかりのライプツィヒのゲヴァントハウス管弦楽団が本拠地のゲヴァントハウスで催した記念演奏会のライヴである。
曲目は無論オール・シューマン・プロだが、これが凝りに凝ったラインナップなのだ。
チャイコフスキー編曲 「交響的練習曲」より アダージョとアレグロ・ブリランテ
ピアノ協奏曲*
ラヴェル編曲 「謝肉祭」より
交響曲 第四番
ピアノ=マルタ・アルヘリッチ(*)
リッカルド・シャイイ指揮 ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団
冒頭のチャイコフスキー編曲版がまず珍しい。小生は寡聞にしてその存在すら知らなかった。まあ大した曲ではなさそうだったが。
アルヘリッチが弾くピアノ協奏曲を生で聴いたのは、あれは1981年のことだったろうか。小澤征爾と新日本フィルが共演した定期演奏会だと思う。四半世紀ぶりに彼女のシューマンを聴いて、ああ殆ど変わっていないなと確認。ちょっとした弾き崩しや畳みかけるようにテンポを上げる走句もおんなじだ。
アンコールは「子供の情景」から冒頭の「知らない国々」。彼女がこれを全曲弾く機会はもう来ないのだろうか…。
後半の「謝肉祭」のモーリス・ラヴェル版は確か1914年、ディアギレフと袂を分ったニジンスキーの依頼でロンドン公演用に編曲したヴァージョンだと思う(ショパンに拠った「レ・シルフィード」も同時に編曲)。結局ニジンスキーの急病でこれは上演されることなく、譜面はロモラ夫人の手許に長く眠っていたらしい(その間に何曲かが失われてしまった)。実演で聴く機会は滅多にない。
演奏されたのは「前口上」「ドイツ風円舞曲」「間奏曲 パガニーニ」「ペリシテ人たちを討つダヴィデ同盟の行進」の四曲。現存するのはこれだけのはずだ。シャイイの指揮は委曲を尽くしたもの。
最後の第四交響曲はゲヴァントハウス管弦楽団の重々しい音色を活かした好演だと思う。
シャイイの生演奏には一度しか接していないが(コンセルトハバウの定期で聴いたマーラーの第十)、いずれゲヴァントハウスを振る実演を聴いてみたくなった。