家に帰りついたら、もうひとつ小包が届いていた。京都のロシア児童文化研究グループ「カスチョールの会」からの荷物だ。同会の機関誌『カスチョール』の24号と、姉妹誌『アグネブーシカ』の4号。それぞれの最新号である。昨年末に出ていたようなのだが、先日たまたま葉山で同人の田中友子さんに教えられるまで、迂闊にも気づかなかった。
2004年に「幻のロシア絵本」展が芦屋でスタートした際、同会の皆さんはいち早く観に来て下さったし、そのあと小生が京都を訪れた際に、主宰者の田中泰子さんや娘さんの田中友子さんと長時間話し合ったこともある(厚かましくも泊めていただいた)。そのときに、モスクワの図書館でコピーしてきた1930年前後の児童雑誌群の膨大な紙束を見せられ、「これから時間をかけてこれを研究したい」との抱負をうかがったものだ。
ここに届けられた二冊はその成果の一端と呼ぶべきものだ。『アグネブーシカ』誌は一冊まるごとを使って、1928年にレニングラードで刊行された『はりねずみ Ёж』創刊号の完訳を行っている。
判型も元版と同じ、表紙もその石版の風合いを彷彿とさせる。さすがに誌面のレイアウトまでは再現できていないが、挿絵も写真もすべて再録され、オリジナルの雰囲気を味わうのに不足はない。この創刊号には、「幻のロシア絵本」展で絵本版を展示したチュコフスキーのなぞなぞ詩「バスケットの仔猫」や、ハルムス詩、エルモラーエワ絵の「イワン・イワヌィチ・サモワール」の初出形が掲載されるなど、はなはだ興味深い内容だ。当時のロシア絵本に関心のある方には見逃せない一冊。小生は三冊まとめて注文しましたよ。
一方の『カスチョール』は同誌の十五周年の記念号であり、生誕百年のラチョフ特集、イジー・トルンカの評伝、ショスタコーヴィチの長女ガリーナ訪問記…と盛り沢山。アグニヤ・バルトー詩、ゲオルギー・エチェイストフ絵の絵本「兄弟たち」の全訳は貴重な企てだし、「ロシア児童文学・文化史年表」(1958)の翻訳は有意義な労作であろう。
そうした折も折、先週末にパリの古本屋からその『はりねずみ』誌の現物が七冊も届いた。実際に当時の子供たちが愛読したものも含まれ、だいぶ傷んではいるのだが、現物をみる機会はきわめて稀なので、意を決して購入に踏み切ったのである。
以前やはりパリで手に入れたものと併せて、手許の『はりねずみ』はようやく十冊になった。このほか1930年前後の児童雑誌は『まひわ Чиж』が一冊、『火花 Искорка』が三冊。まだまだコレクションというには程遠い。
次回に田中友子さんが上京された折にでも、これらをお目にかけることにしよう。いずれにせよ、ロシア語を解さぬ小生にはいささか荷の重い代物であることは確か。
何はともあれ、「カスチョールの会」の果敢な取り組みには頭が下がる思いだ。