世界じゅうで親しまれたイタリアの名テノール、ルチャーノ・パヴァロッティが亡くなった。享年七十一。膵臓癌だったという。
功なり名遂げ頂点を窮めた人だから、拙ブログがわざわざ追悼するには及ばない気もするが、なんといっても彼は、小生が初めて生の舞台でオペラを観たとき、主役を歌っていた人なのだ。知らぬ顔なぞできるはずがないのである。
1971年9月7日火曜日18:30~ 東京文化会館
第六次「イタリア歌劇団」公演
演目は『リゴレット』、その第一日である。登場するなり「女心の唄」をとてつもなく大きな美声で謳い上げて満場の喝采を浴びた。わが国ではほとんど無名同然だったパヴァロッティの名を一挙に知らしめる歴史的瞬間だった。三階の隅っこの客席で聴いていても、その声の素晴らしさには圧倒された。全身に震えがきた。
当夜のキャスト/
マントヴァ公爵: ルチャーノ・パヴァロッティ
リゴレット: ピーター・グロッソップ
ジルダ: ルイーズ・ラッセル
スパラフチレ: ルッジェーロ・ライモンディ
マッダレーナ: アンナ・ディ・スタジオ
モンテローネ伯爵: プリニオ・クラバッシ ほか
指揮/ロヴロ・フォン・マタチッチ
NHK交響楽団
パヴァロッティのどこまでも陽性で輝かしい声。脇役ながらライモンディの深く朗々と響く声。そして何よりも、ヴェルディのドラマティックな音楽に酔いしれ、魂を奪われた。終生忘れがたい一夜である。
とはいえ、子供心にも、このときのリゴレットとジルダは一向に感心できず、ミスキャストだと思われた。マタチッチの指揮も空回り気味だったと記憶する。
パヴァロッティを生で聴いたのは、後にも先にもこの宵ただ一度だけ。だから三十六年経った今なお、恐ろしく鮮明に覚えているのであろう。たしかにあのときの「女心の唄」は凄かった。
先ほどのBBC-TVではキリ・テ・カナワが電話インタヴューに答えてパヴァロッティの想い出をしみじみと語っていた。不世出のテノールの冥福を心からお祈りする。