今日も焼けつくように暑い。こんな日は炎天下を歩きたくないのだが、仕方なく表参道駅で地上に出て、コム・デ・ギャルソンやプラダの前を通ってとぼとぼ歩く。道のりが遠く感じられる。
約束の十二時を少し回ってようやく「古書 日月堂」に到着。戦前の日本舞踊の最前衛、藤蔭静枝に関連するパンフ類が入荷したとの知らせで、かんかん照りをものともせず駆けつけた次第。汗だくの小生を見かねて、店主の佐藤真砂さんが冷茶をふるまって下さる。
さっそく見せていただくと、どれもこれも1930年代初頭の「藤蔭会」公演にまつわる稀少な品々。見た目はいささか地味だが、当時いかに大胆な試みが実行に移されたかを偲ぶのに格好の資料だ。取り置いてもらっていた石井漠関連のパンフともども、いただいて帰る。
もと来た道を引き返しながら考える。これらを入手したからには重大な責任が生じる。もっと舞踊史を勉強して、その資料的価値を十全に引き出さねば、コレクターの名に恥じることになるぞ。ただ漫然と所有するだけなら、それはもはやコレクターではなく、単なるホールダーに堕してしまうぞ、と。
そんなことをつらつら思案していたら、もう周囲の猛暑はどこかへ雲散霧消。なんだか粛然とした気分で家路についた。