つい先日、プーランクの一人オペラ『人間の声 La Voix humaine』のロシア語盤の出現に驚き、これを紹介した(
→ここ)。
そのときのレヴューで、これはあくまでもコクトーのフランス語のテクストに即して原語で歌われるのがスジで、「英語やドイツ語でこのモノ・オペラを歌うことは不可能ではないだろうが、歌手はその見識が問われることになろう」と皮肉っぽく述べた。その舌の根も乾かぬうちに、今度はドイツ語で歌われた『人間の声』の登場である。先日、歌舞伎座の帰路、秋葉原の音盤屋で見つけて吃驚した。
題名からして "Die menschliche Stimme" 「ディー・メンシュリッヒェ・シュティンメ」…まるでシェーンベルクか誰かの楽曲みたい。またもやこわごわ聴いてみる。
フランシス・プーランク: 歌劇 『人間の声』(ドイツ語版)*
レオシュ・ヤナーチェク: 歌曲集 『消えた男の日記』(ドイツ語版)
ソプラノ=バルバラ・フリーベル*
テノール=ヨハンネス・フーム ほか
クリストフ・エーベルレ指揮 フォラールベルク交響楽団
(2003年7~8月、ブレゲンツ音楽祭実況)
VMS 144
いやはや、これが予想に反して、素晴らしい聴きものだった。
ちょっとシュプレッヒシュティンメ(語り歌い)風の歌唱といい、ドイツ語特有の鋭い子音語尾といい、無駄話同然のテクストがほとんど表現主義と呼びたい深刻な媒体と化す。この曲があたかもシェーンベルクのモノドラマ『期待』や、時として『ピエロ・リュネール』のすぐ近くに位置するようにすら思えてくる。実に不思議な体験である。
かくなるうえは、英語であれスペイン語であれ中国語であれ、さまざまな言語で歌われた『人間の声』を聴いてみたい。
併録のヤナーチェクについてはいずれコメントすることにして、今日はすでに架蔵するプーランク『人間の声』のCDを時代順に整理しておこう。