日中に予定していた用件が急に夕方からに変更になった。今朝そのことを知り、意を決して電車に飛び乗った。今なら昼の部にまだ間に合うかもしれない。はたして切符が残っているかどうか、イチかバチか、とにかく行くだけ行ってみよう。
先週、家人が観てえらく感嘆したという「七月大歌舞伎」、どうにも都合がつかぬ小生は、もう無理と諦めかけていたのだが、こうなったら是が非でも観てみたい。
演し物は『十二夜』、ヨリ正確には『NINAGAWA 十二夜』という。シェイクスピア劇を蜷川幸雄が演出し、本格的な歌舞伎として上演する。2005年にこの歌舞伎座で初演され、評判をとった舞台の二年ぶりの再演だという。
歌舞伎座の当日券売場にはすでに十五人ほどの列ができていた。発売は十時から。観られるのなら、どんな端っこの席でも構わない。
ようやく順番が来て、窓口で「今あるなかでベストの席を一枚!」と叫ぶ。驚いたことに六列目のど真ん中が残っていた。なんという幸運だろう。
十時半、開場。
歌舞伎座は何年ぶりだろう。以前とまるで変わっていない。なんだかホッとする。平日の昼の部とあって、周囲のほとんどが中高年女性。ただし上品に小声でしゃべるオバサマばかり。
2007年 七月大歌舞伎(7月7日初日/7月29日千穐楽)
NINAGAWA 十二夜
ウィリアム・シェイクスピア/作
小田島雄志/訳
今井豊茂/脚本
蜷川幸雄/演出
金井勇一郎/装置
原田保/照明
斯波主膳之助+獅子丸(実は琵琶姫)/尾上菊之助
織笛姫/中村時蔵
右大弁安藤英竹/中村翫雀
大篠左大臣/中村錦之助
麻阿/市川亀治郎
役人頭嵯應覚兵衛/坂東亀三郎
従者久利男/尾上松也
海斗鳰兵衛/河原崎権十郎
従者幡太/坂東秀調
比叡庵五郎/市川團蔵
舟長磯右衛門/市川段四郎
左大弁洞院鐘道/市川左團次
丸尾坊太夫+捨助/尾上菊五郎
どんな舞台だったのか、あえて家人からは何ひとつ聞き出さなかったので、予備知識は皆無。まるで予測も見当もつかない。
シェイクスピアを歌舞伎に改作して歌舞伎座の舞台にかける。ハムレットやポーシャに歌舞伎役者が扮した明治末年ならともかく、21世紀の今現在、そうした試みにどんな意味はあるのか。蜷川にはたして成算はあるのか。
十一時、冴えた柝の音とともに定式幕が払われると、おお、なんと…
満座の観客がひとり残らず息を呑む。こ、これは凄い…
そして一斉に巻き起こる大拍手。開巻一番、いきなりもう蜷川ワールドだ。
…と、ここまで書いて、これ以上は言葉にしたくないと感じている自分自身に気がついた。いわゆる「ネタバレ」の禁を犯しそうだし、それより何より、筆舌に尽くしがたい素晴らしさだったからだ。あとはもう、実際に観て、感じ取っていただくに如くはない。
千穐楽まであと三日ある。これは必見の芝居だ。一幕見でもいいから、せめて最初の幕だけでも実見してみてほしい。
(続きはあした)