(承前)
昨日の続きなのだが、この『ボストン夫人のパッチワーク』の頁を繰る前に、ボストン夫人その人の著作をいくつか読んでいただくのが手順というものだろう。
幸い、ルーシー・M・ボストンのライフワークたる「グリーン・ノウ」シリーズ全六冊(正確には五冊+別巻一)の邦訳は、今も一冊残らず手に入る。ありがたいことだ。
挿絵はボストン夫人の一粒種、長男のピーター・ボストンの手になるもの。さすがに館内外や庭園の描写がきめこまかく正確だ。馥郁たる詩的な香りも床しい。
まずは第一冊目の『グリーン・ノウの子どもたち』から読まれるがいい。英国の古い屋敷を舞台にしたファンタジーとしては、エリザベス・グージの『まぼろしの白馬』、フィリッパ・ピアスの『トムは真夜中の庭で』、そしてこのボストン夫人の第一作が真っ先に思い出される。
本当のことを言おうか。この "Children of Green Knowe" には、この評論社版に先立って、もうひとつ別の翻訳が出ていた。こちらのほうが断然いいのだ。
ルーシー=M・ボストン作、瀬田貞二訳 『まぼろしの子どもたち』学習研究社、1968
憶えている方は少なかろうが、1960年代の後半、海外児童文学の紹介にかけて、学研は岩波書店と双璧、というか、両者は盛んにしのぎを削っていた。これはそうした時代に出た「少年少女・新しい世界の文学」の一冊。立派な箱入の愛蔵版。
瀬田貞二の訳文が比類なき魅力を放つのは言うまでもないが、加えてここには堀内誠一の手になるモノクローム挿絵がふんだんに収載される。それらの素晴らしさといったら! この時点で堀内にはボストン夫人の館を訪れる機会はなかったはずだが、瀬田のたっての希望で、わずかな写真資料と想像力だけを頼りに新しい描画を描きおろしたとのこと。
今や容易に見つからない本ではあるが、機会があったらぜひこの翻訳と挿絵で読んでみてほしいものだ。苦労して探索するだけの価値がある。ずっとのちに偕成社から文庫のフォーマットで復刊されたと記憶するが、オリジナル版とはおよそ比較にならなかった。
(8日につづく)